葵[先輩]


 バスッ!バッ!
 激しいラッシュがサンドバッグに叩き込まれていく。葵のトレーニングメニューのラストだ。一挙動の度に短いショートカットが奔放に動き、汗の雫が飛散する。あまり身長が高くないだけに、その躍動的な動きが際だっていた。
 ぐいっ…と大きく脚を跳ね上げ、
 バシィッッ!
 強烈なハイキック。
「はいっ!そこまでよ、葵」
「はい、綾香さん!」
 すさまじいまでの運動量だったにも拘わらず、葵はへたり込む事もしなかった。綾香から受け取った青いタオルで汗をしきりにぬぐっている。
「調子、悪くないみたいね」
「はい…綾香さんが指示を出してくださる日は、無駄なく動けているみたいです」
 タオルから顔を上げて言う。汗で張り付く前髪を横に流したため、額が見えていた。
「でも、これまでよく一人で頑張ったものね」
「ずっと、そうやってきたわけですし…だけど、綾香さんに見てもらうとやっぱり違います、スパーリングの相手もしてくださいますし」
 綾香が差し出したスポーツドリンクのボトルを受け取って、少しずつ飲む。
「ま、出来るだけ来るようにはするわ。毎日ってわけにはいかないけどね」
「無理なさらないでくださいね。綾香さんの方の練習も…」
 汗を一通り拭き、水分も補給した葵。タオルとボトルを綾香に渡すと、再びサンドバッグの方に向かった。吊していた木から下ろすのだ。
 どさっ。
「それくらいはわきまえてるわよ」
「そうですね、私なんかが心配しなくても…」
「心配してくれるのは嬉しいわよ。気持ちだけもらっておくわ」
「は、はい」
 葵は社の陰にサンドバッグを置く。綾香は葵のバッグの中からナイロンの袋をとりだし、汗に濡れたタオルを入れた。そして、バッグの隅にナイロンの袋とボトルを滑り込ませる。
「シャワー浴びてくるんでしょ?私は校門の辺りで待ってるわね」
「あ、はい。すいません、急いで浴びてきます」
「大丈夫よ、急がなくても」
 しかし葵は着替えを入れたバッグを受け取ると、全力でダッシュしていった。常人の体力とは違うようだ。乾いた土を蹴る音はあっという間に遠のいていった。
 後に残った綾香は、境内をぐるっと軽く見渡してからゆっくりと歩き出した。ここは学校の裏山にある小さな神社だった。葵が同好会–––部員は一人、予算もついていない–––の練習の場として使っているのだ。


「…あら」
 校門にもたれて葵を待っていた綾香の横を、知った顔が通り過ぎた。
「姉さん」
「………」
 綾香の姉、芹香だった。
「浩之は一緒なの?」
 ふるふる。
 芹香は顔を横に振った。
「そう…」
 綾香はそれだけ聞くと、視線を正面に戻した。しかし、芹香は立ち止まったまま動こうとしない。
「…長瀬さん待ち?」
 こく。
 芹香がうなずく。
「参ったな…こないだ、あんまり外ばっかり出回るなって言われたばっかだし」
 綾香はちょっと考えてから、校内に入っていこうとする。
「すぐ近くにいるけど…長瀬さんには内緒ね」
「………」
「ちょっとした待ち合わせ」
 綾香は、結局校門のすぐ裏のところに身を隠している事にした。黙っていれば外から見える位置ではない。
「ふぅ…」
 まだ暑さがかなり残っているものの、秋晴れだった。もう少しすれば、あの境内に向かう道にも落ち葉が積もる事だろう。過ごしやすい季節がやってくる。
 ブラウスに、制服であるくすんだグリーンのスカート。この高校の生徒の履いているスカートはやや深みを帯びた赤だ。綾香がこの高校の生徒ではない事は明白だった。しかし特に悪びれた様子はない。
「綾香さーん」
 しばらくすると、葵の声がどこからか聞こえてくる。
 見回すと、左の方から綾香に向かって駆けてくる葵の姿があった。綾香は唇に指を当てて、「静かに」のサインを送る。
「?」
 葵は周りをきょろきょろと見回してから、綾香の方に歩いてくる。
「…どうかしたんですか?」
 不思議そうな声で問う。一応ボリュームは抑えられていた。
「ちょっとね…葵、外に出て姉さんがまだいるかどうか見てきてくれない?」
「芹香さんですか?」
「そう」
「はい…」
 綾香は葵と歩いているときに偶然芹香と会って、紹介したことがあるのだ。
 葵は校門から少しだけ顔を出して、すぐに戻ってくる。
「いらっしゃいますよ」
「そう…一人?」
「ええ」
 綾香が待っている間にも、何回か車が止まる音がしていた。学校の前に信号があるせいだ。だから、音だけでは長瀬が来たか来ていないか判断できなかったのだ。
「じゃあ、行きましょうか」
 綾香は早歩きで校門に向かう。
「あ…はい」
 やや釈然としないまま、葵も綾香について歩き出した。
 校門を出た所で、確かに芹香がいる。
「じゃあね、姉さん」
「こんにちは…」
 綾香と葵は芹香に声を掛けて、歩道を左に歩き出した。
「………」
「え?」
 芹香が何事か言って、右の方を向いた。
 走ってくる黒塗りのリムジン。
「あちゃー…よりによって最悪のタイミングね」
 だっ。
 綾香は突然ダッシュする。
「え?綾香さん?どうしたんですか?」
 とりあえず、反射的に葵もダッシュした。
 だっだっだっ…!
 脚の長さでも、残った体力でも綾香が勝っている。学校の壁が途切れた所の路地に綾香が駆け込んだ時には、葵とだいぶ距離の差がついていた。
 3,4秒の差をつけて、葵が路地に転がり込んでくる。その向こうをリムジンが走り抜けていく。
「はぁ…どうしたんですか?」
 トレーニングの後に二回もダッシュをしたと言うのに、それほど疲れた様子も見せていない。
「ちょっとね。ごめん、疲れてる時に走らせたりして」
「いえ、それは大丈夫ですけど…」
「あのタイミングでつかまると、説教食らいそうだったから…」
「はぁ…」
 未だに状況をつかみきれていない葵が曖昧に答える。
「いいのいいの、気にしなくて。ねぇ葵、喉まだ乾いてるでしょ?」
「いえ…大丈夫ですよ」
「私も、少し何か飲みたくなったから…茶店(さてん)でも寄ってきましょ」
「すいません」
 綾香がどこかに誘うというのは、すなわちおごりを意味していた。


「お邪魔します」
「すいません、いつも散らかっていて」
 商店街の小さな喫茶店でアイスティーとフルーツケーキを楽しんだ二人が来たのは葵の家だった。ごく普通の、東京の郊外ならどこでもありそうな一軒家。当たり前のように共働きだった。
「ちょっと待っててください…」
 葵はなぜか綾香から視線をそらし、少し頬を赤くして言った。
「先に行っているわね」
「はい…」
 たんたんたんたんたん。
 玄関を上がって、廊下と平行になっている階段を葵が急いで上っていく。
 綾香は真っ直ぐ廊下を歩いていった。そして、途中で左側にある部屋に入る。
 そこは小さな部屋。いや、部屋と言う呼称はあまり相応しくない。そこに置かれているものは全自動の洗濯機、洗面台、脱衣カゴ…右の方には磨りガラスの、二つに折れるタイプのドアー。どう考えても脱衣所兼洗面所でしかない。しかし、綾香は洗面台から水を出したり鏡をのぞいたりする事はせず、ただ廊下の方を見ているだけだった。
 たたたた…
 やがて、葵が階段を下りてくる音が聞こえてきた。
「お待たせしました…」
 葵は顔を赤く上気させて言った。その手には、ポーチ状の袋がある。
 文房具、あるいは小さなタオルなどを入れるような、茶色っぽい半透明で口をぴっちりと閉じられるようになっている袋だ。
 中には、ネイビーブルーの棒状の何かと、平らな形状をした瓶のようなものが入っているのがわかる。瓶の色も、ブルーのようだ。半透明と言っても、中に入っているものはあまりよく見えない。シルエットと大体の色がわかる程度だった。
「じゃあ、葵…」
「綾香さん…」
 綾香が軽く腕を開いた。
 そこに、手を胸の前で合わせるようにした葵が身を寄せる。どこか不安げな表情を隠しもせず。その葵を、綾香の腕が軽く抱きしめた。
 時間が止まったかのような抱擁。
 二人は、何をも言わずに、視線すらも交わさずに抱き合った。綾香の目には透明が、葵の目には恐れと背徳の色が見える。ただ、嫌がっている素振りは微塵(みじん)もない。
 綾香は特に身長が高いというわけでもないのだが、この抱擁において彼女と葵との身長差は絶対的なものに見えた。葵が小柄だという事以上の何かに起因する違い。
 やがて綾香は腕を解く。それほど長い抱擁ではなかった。
 葵は一歩引くと膝をかがめ、手に持った袋を鈍い白色をした床に置く。そして、きちんとスカートの中に入れられたブラウスの裾を引っぱり出し、一番上からボタンを手早く外していった。
 途中でうまくボタンが外れずにまごつく事はあったが、躊躇はなかった。綾香はそれをじっと見つめていた。冷ややかとも温かとも言い難い、中立な視線だ。
 ブラウスを脱ぎ捨てるとその下には綿のシャツ。ざっと脱いでしまえば、その下にはやはりスポーツ・ブラ。
 葵はスカートのホックを外し、するっと落ちるそれを畳んで脱衣カゴに入れる。ただ二つの白い下着だけの姿だ。それも一瞬しか続かなかった。葵が背中に手を回して、ブラのホックをあっという間に外したのだ。滑り落ちるそれをつかんで脱衣カゴに投げる。
 最後のショーツについても全く変わらなかった。手を掛けたかと思うと、次の瞬間には一気に膝まで、そして爪先まで下りていた。秘裂が露わになる瞬間を確定する事ができない。葵の表情が恥じらいに動く瞬間が存在しなかったからだ。
 そう、服を脱いでいる間、葵の顔には憂いにも似た表情は浮かんでいたが、恥じらいを見出す事は出来なかった。一糸纏わぬ姿になった今も、手で身体を隠そうともしていない。綾香の正面に直立しているのに、である。視線だけが綾香からわずかにそらされていた。
 未だ発展途上の胸の膨らみも、陰毛が覆い隠し切れていない一本の筋も、くっきりと見える。
 まるで、恥じらいの感情を否定されたかのような姿だ。
 その姿を自ら晒すかのように、10秒間も葵は動かなかった。
 がた…
 葵が動いた。浴室のドアを押す。ドアが二つに折れて、開く。タイル貼りの、それほど大きくはない浴室だ。中に水気は残っていない。
 さっき床に置いた袋を葵はつかむ。しゃがんだ時に秘裂が広がって中のピンク色の部分が見えたのだが、それは綾香からほぼ死角だったようだ。
 その袋を持って、葵は浴室に入っていった。その時にも、綾香は声を掛けない。葵も、何も言わない。
 がた…がちゃ。
 ドアを閉める。それと同時に、脱衣所の方で衣擦れの音がし始めた。綾香が服を脱ぎ始めているのだ。もっとも、密閉度の高い浴室のドアのせいで、その音はだいぶ遠いものに聞こえた。
 きゅっ…
 シャーッ。
 葵がシャワーの蛇口をひねると、水流が勢い良く飛び出す。葵はそこに手を出した。水だったものが段々と温かくなっていき、やがてちょうど良い温度で一定する。温度も強さもずっと同じままに持続する、悪くないシャワーだ。
 かん。
 葵は浴室の床に袋を置いた。やや固い音がする。
 それから壁に掛かっていたシャワーノズルを取って、葵は全身に温水をかけ始めた。身体を洗うと言うより、濡らすと言った感じだ。続いて、手で軽く髪を払いながらそこにも温水を掛ける。張り付いたショートカットのせいで、ボーイッシュな雰囲気が際だった。だが、水滴をしたたらせるボディ・ラインはそれを否定している。
 葵は一通り身体を濡らすと、最初より低めの位置にあるシャワーノズル掛けにシャワーを戻した。
 シャワーの水流を止めて身を屈め、床に置いた袋を取る。つまみを横にずらすと、ぴったりと閉じられた袋の口が開いていった。葵はそこから、棒状のものと瓶を両方取り出す。
 棒状に見えたのは…ネイビーブルーのバイブレータだった。ペニスをデフォルメしたような、シンプルなデザイン。そこから伸びたコード、スイッチボックスも同じ色。浴室用品に溶け込んでしまいそうなテイストだった。
 もう一つは、透明なビンに入ったブルーのローションだった。葵はローションのフタを開けると、手の平にたらたらと垂らしていく。どろりとした液体が手の平にたまった所でビンを置き、逆の手で持ったバイブレータにローションをまぶしていく。
 くるくると転がすようにしていくと、段々バイブレータに粘液が絡みついていった。色が似ているので、濡れたところとそうでないところの区別は光の反射でしかわからない。そのぶん、「天然の」粘液に濡れたかのような雰囲気が生まれていた。
 葵は、ローションをつけ終わったバイブを右手で持ったまま、左手に残ったローションを直接秘部へ運んでいった。秘裂を広げ、ヴァギナのところにぐちゅぐちゅと絡める。手に残ったローションをこすりつけるようにする。それが終わると、人差し指でヴァギナの中にローションを塗り込んでいった。
 十分に秘部を潤わせると、葵はバイブをヴァギナにあてがう。そしてぬるっ…と押し込んでいった。あまりサイズに余裕はないようだったが、ローションのせいか抵抗感や摩擦感は無かった。
 一番深いところまで差し込んでも、根元が見えている。秘裂を無機質な物体で割り開かれた葵の裸体は、どこか無様だった。
 葵は秘裂から生えたコードをたぐり寄せ、スイッチを入れる。
 ヴィー…ヴィー…ヴィー…
「あくっ…」
 初めて苦しそうな声が漏れた。規則的な音を立てて、バイブが胎内をかき回し始めたのだ。機械的に玩具を性器にうずめた葵に、性感の高まりがあるはずもない。
 しかし耐えがたい苦痛というほどの事はないようだ。葵はやや息を上げつつも、すぐに落ち着いた素振りを見せる。
 がちゃっ。
 見計らったかのように綾香が入ってきた。
 もちろん、全裸だ。格闘技のチャンピオンらしく引き締まった身体ではあるが、肉感にもあふれた肢体。みずみずしい肌の隅々から自信を放っているかのようにも見える。
「あ、綾香さん…」
「いい子ね」
 葵が立ち上がる。コードがスイッチボックスを引きずって、からっと音が立った。全身から水滴を垂らし、股間に振動するバイブを突っ込んでいる葵。まるで綾香の前に差し出された生け贄のようだ。
 シャーッ。
 葵は再びシャワーノズルから水流を出し始めた。今度は最初から温水だ。それを持ち、綾香の方に歩み寄る。
「失礼します…」
 そう言って、葵は綾香の身体にシャワーの水流を向けていった。
 いきなり強く当たらないように、葵は自分の手で水流を少し遮り、勢いを弱める。その温水を、綾香の身体全体に段々と掛けていく。水を弾きそうにつるんとした綾香の肌も、段々と水流に濡れていった。
 最初は肩口から入っていった水流が、綾香の身体のあちこちに回されていく。途中で綾香が背中を向けると、葵は綾香の長い髪を手ぐしでとかすようにしながら水流を掛けていった。駆け出しの美容師がモデルを相手にしているような丁寧な扱い方だ。
 それが終わると、綾香は再び葵の方を向いた。
 葵はおずおずと身を低くして、シャワーノズルを綾香の秘裂の方に近づけていく。葵のと違う、柔らかそうなヘアにしっかりと隠された秘裂だ。葵は水流をほとんど遮るようにして、勢いを殺した温水を綾香の秘裂に掛けていく。
 そして、秘裂を少しだけ開く。綾香の秘裂の中に、温かな水が流れ込んでいく。指で撫でたりして洗おうというわけではない、汗を流すといった程度の意図だ。
 …きゅっ。
 葵がシャワーの水流を止める。全身の隅までの清めであった。
「葵…」
「綾香さん…」
 呼びかけあう。二人とも、脱衣所で呼び掛け合った時より声がうわずっていた。浴室の中には逃げ場を失った熱い水蒸気がこもっていたし、何より葵の秘部はバイブの振動をずっと感じつつあったのだ。
 綾香は、バスタブに座った。脚を少し開く。その奥には、ついさっき温水に撫でられた部分。
 葵は跪(ひざまづ)いた。
「いいですか…?」
「いいわよ」
 脚の間に頭を入れた葵が、前に進んでいく。綾香の脚が、また少し開いた。内股に当てた葵の手が、濡れた肌の上を滑っていく。半開きになった口が、一瞬で綾香の秘部の目の前にまで迫る。そして跪きの姿勢の間からはみ出た青いバイブ。
 むっと熱気を放つような綾香の性器に、葵はそっと口づけた。
「ん…」
 鼻にかかった声が綾香の唇から漏れる。
 葵は舌を突き出して、秘裂の入り口をずるりと舐めた。湯で温まった粘膜が葵の舌を包み込む。水流を当てたせいか、そこはほとんど無味だった。葵は綾香の身体の高まりを待つかのように、幾度も幾度も入り口のところを舐め上げる。もっとも、粘膜と肌の境目を刺激しているとはいえ、かなり大胆な舌戯であるのは間違いなかった。
「…ん…ふぅ…」
 大きく綾香が息を吐き出す。そして、葵の濡れた頭髪に手を当てた。
 それが一つの合図であったようで、葵はより深く舌を差し込んでいく。ぬるんとした舐め上げの時に、つんと酸味が感じられた。綾香の愛液がとろけ出したようだ。
 その同性の香気に当てられたかのように、葵は俄然舌の動きを強くする。べろんと出した舌で、綾香の愛液をしきりに舐め取る。その度にぷちゅっ、ぷちゅっと綾香のヴァギナは愛液を分泌させ、葵の唾液と混ざり合っていった。綾香の身体が昂(たかぶ)りつつあるのは間違いない。
 一方の葵も、股間のバイブが単純で無遠慮な振動を続けているだけにも拘わらず、ほのかな快感を感じていた。
 また、綾香の葵の髪に対する性感帯をはるかに外れた愛撫にも、葵は従属的な快楽を覚えた。体育会系の論理か、生来の性格か、綾香への個人的な敬愛か、そのいずれの変形であるのかは分からないが、そこにあるのは明確な倒錯の快感だ。
 一方的な奉仕のように見える性行為だが、実際にはお互いの性感を仲立ちにしたものなのである。
 葵が執拗にヴァギナへのクンニリングスを続けているうちに、段々と愛液の酸味が強くなり、色も白っぽいものになってくる。綾香の表情も、何かに堪え忍ぶかのような切なそうなものに変わっていく。
 それを見て、葵は舌をクリトリスにぴたりと当てた。
「あっ」
 打撃を受けたかのような声と表情。
 次の瞬間、葵は思い切りクリトリスを舐め上げた。既に勃起を初めていたクリトリスだ。包皮が簡単に剥けた。
「あっ…くぅっ…」
 綾香が眉をしかめ、ぎゅっと葵の頭を押さえつける。太股が強い力で葵の頭を挟み込む。
 圧迫感が、葵の性感を高鳴らせた。
 舌の先を無防備なクリトリスに押し当てて、顔全体を動かすようにぐりゅぐりゅと刺激を与える。
「ひくっ…ん…うぁぁっ」
 綾香は押し殺した嬌声を上げた。腰がぐいぐいと葵の顔に押しつけられる。いかなる少女でも最大の性感帯であるクリトリスだが、綾香にとってはとりわけ大きなウィーク・ポイントなのだ。ヴァギナからあふれた愛液は受け止めるものも無く、バスタブの縁にたらたらと垂れていく。
 葵もそれを習熟しているようだったが、行っている舌戯は一切の手加減を加えないものだった。膨れ上がったその部分を唇でくわえて、ちゅっ、ちゅっと吸い上げる。
「あ、あ、あっ!」
 ぎゅううっと太股が締め付ける。綾香はあっけなく絶頂に達した。
「はぁ…はぁ…」
 綾香は身体をのけぞらせて、絶頂の余韻に浸っていた。葵はバスタブに綾香が落ち込まないように身体を支える。
「あ…あぁ…」
 ひくひくとした痙攣が収まると、綾香は身体を元の姿勢に戻す。
「よかったわよ…葵」
「ありがとうございます…」
「座りなさい…」
「…はい」
 葵は綾香の言葉に従い、綾香の正面を向いたまま浴室の床に座り込んだ。M字開脚。しかも、足は出来る限り大きく広げられている。その中心に、黙々と振動し続けるバイブがある。
 シャーッ…
 綾香はシャワーノズルを手に取り、温水を出し始める。葵はその間に自らの秘裂を指で広げていた。バイブの刺激で膨らみ始めていたクリトリスの包皮を自ら剥き、むき出しにする。その状態のまま、両の手で秘裂を思い切り広げた。バイブに陵辱されている少女の秘部が、葵自身の手で晒される。
「いくわよ…」
 言って、綾香はシャワーノズルを葵の方に向けた。
 水流が、正確に葵の秘部に収束していく。
「くううぅ…」
 葵が苦しそうな声を上げて、身体をよじらせた。しかし逃げようとしない。シャワーの強い水流は、葵の身体に達するところまで来てもあまり勢いを失っていない。かなりの勢いを持った水流が敏感な部分を直接刺激しているのだ。それには露わになったクリトリスも含まれている。
「あーっ…ひうぅ…うぅ…」
 緩急の無い、延々とした強い刺激。葵は必死で耐えていたが、
「い…いやぁ…」
 泣きそうな声が上がると、
 ちょ…ちょろ…
 シャワーの水音に、違う水音が混ざった。葵の秘部から、黄色い液体が放出され始めている。
「やだ…いやですっ…」
 一度出始めると止まらない。シャワーの水流に逆らうようにして、尿が綾香の見つめる中に力無く流れていった。アンモニア臭がして、それをシャワーの水流がすーっと流していく。
 数瞬の後には葵の放尿の痕跡は全て洗い流されていたが、葵は力つきたかのような表情をしていた。
 それでも綾香は葵の秘部に水流を当て続ける。
「あ…ううっ」
 拷問のような愛撫であったが、そんな状態でも葵は性感をどんどん高めていったようで、
「綾香さんっ…綾香さんっ」
 おもむろに自らのクリトリスに指を当て、自慰を始めた。
「あ…ああっ」
 安心しきったような、直接的な性感への悦び。
 綾香はシャワーの水流を当てるのをやめて、その様子を見つめる。
「あっ!」
 葵はすぐに高い声を上げて絶頂に達した。ひゅくひゅくと秘裂を痙攣させる。くわえこんだバイブを締め付ける。
 疲れが限界に達したのか、マゾヒスティックな性感が強烈すぎたのか、葵はぐったりと浴室の壁にもたれてしまった。


 秋口だ。日が落ちるのも早い。
 綾香は一人家路を歩きながら、真っ赤な夕焼けを見ていた。家につく頃には闇に包まれているだろう。長瀬も一言や二言では済ませてくれないかもしれない。
「あ…」
 その時、綾香のはるか前の方を知っている人間が歩いているのが視界に入ってきた。
 藤田浩之。今の芹香の彼氏にして…
 元、葵の同好会の会員だ。いや、それ以上の関係であったことは想像に難くない。浩之が同好会に来なくなった事を落ち込む葵の様子を綾香は何度も見ているのだ。
 乗り換えた相手によっては、綾香は浩之を半殺しの目に合わせていたかもしれない。
 だが、相手が自分の姉だったとすれば…
 浩之はすぐに道を曲がって見えなくなる。
 綾香は葵、浩之、芹香、綾香の顔を順番に脳裏に浮かべて、頭をぶんぶんと振った。そして道を全力で駆け出す。大会は近いのだ。スタミナをつけるつもりで、家まで走っていってやろう。
 大会は近いから…葵には、しばらく会えなくなるから…葵に今日の帰り際、自慰用のローターを買う金を渡したのだ。バイブを買ったのも、ローションを買ったのも、綾香のこづかいから…
 だっだっだっだっ!
 綾香は夕焼けを右にして、ただひたすらに駆けていった。