舞[一途]


 どんどん。
「あいてるぞー」
 俺は壁に寄りかかったまま、答えた。
 舞だ。
 インターホンがあるのにドアを叩く人間を、俺は舞以外に知らない。今じゃ、新聞勧誘と区別するのに重宝しているが。
 向こうでドアの開く、ちょっときしんだ音がした。そして、たん、たん、と短い廊下を歩いてくる音がする。
 がちゃ。
「よぉ」
 果たして、俺の6畳のドアを開けたのは舞だった。
「…寝てたの」
 手に持っていた布製のバッグを床に置きながら、舞は聞いてくる。確かに俺はまだパジャマ姿だ。
「何を言う、朝から夜まで着替えずにごろごろして過ごすのは男のロマンだぞ」
 ぺしっ。
 逆の手に持ったスーパーの袋すら置かずに、舞が俺にチョップをくれる。身を沈める時の素早さなど、座っている俺にツッコミを入れるだけなのにえらく気合いが入っていた。
「ってーな」
「お昼、作るから」
 すぐに身を起こして、舞が言う。
 がさっ、と音を立ててスーパーの袋がこたつ–––今のように暑い季節はただのローテーブルだが–––の上に置かれる。見なくても、中身は大体想像がついた。
 舞はバッグの中から畳まれたエプロンを取り出す。ピンクの地にうさぎ柄。佐祐理さんがプレゼントしてくれたそうだ。
「ご飯は炊けてる?」
「ああ」
 やっぱり、いつも通りだった。
 舞はスーパーの袋を持って、部屋を出ていく。1Kのアパートだが、玄関を入ってすぐのキッチンから6畳までに短い廊下があるという構造なのだ。
 袋の一番下から、丸い薄茶色の野菜が透けていた。タマネギ。
 そう、舞が俺の部屋で「ご飯」と言った場合、それは牛丼を指す。最初にメシを作りに来てくれた時は何が出てくるのかと思ったが、案の定牛丼だった時は思わず苦笑した。
 舞が元から作れたはずもないから、佐祐理さんに教わったんだろう。エプロンも、その時もらったんだと思う。
 チチチチッ、と舞がガスの火をつける音が聞こえてきた。最初の頃は怖くて作るのを後ろから見守ろうとしたが、舞に「あっち行ってて」と言われたのだ。
 自分で出来るという自尊心か、はたまた照れ隠しか。いずれにしても舞を立ててやろうと思って、その時俺は自分の部屋に退散した。
 で、「汁が多い方」を作ろうとした結果牛雑炊になった。
 ちょっとむっとしたような、でも恥ずかしそうな顔をする舞が見守る中、俺は一気にそれを平らげた。別にまずくはなかったが、まぁこんなもんだろうと勝手に俺は満足した。
 第二回はその失敗を踏まえて焼き肉丼になった。とりあえずお茶を用意して、香ばしい焦げ目がついた肉と一緒にメシをかっこんだ。連続の失敗で、さすがに舞もなさけなさそうな顔をしていたと思う。
 そうこうするうちに、今日を入れれば、もう2桁の回数になっているんじゃないだろうか。
「お待たせ」
「ほい」
 開けっ放しにしていたドアから、二つのドンブリを持った舞が姿を現した。
 どん。どん。
 こたつの上には、適度に「汁が多いほう」の牛丼が湯気を立てて並んでいた。
 試行錯誤の末だ。考えようによっては、牛丼は失敗してもそれなりに食えるという貴重な練習メニューなのかもしれない。
「じゃ、食うぞー」
「うん」
 いい加減「はちみつくまさん」はやめさせた。相槌で言う言葉でまで連呼されると、どこに言っても横にいる俺が恥ずいのだ。その辺のTPOができないのが舞なのだが…。
 俺と舞は、二人で黙々と牛丼を食った。
「…おいしい?」
「ああ」
 途中、小声で一度だけ会話を交わす。
 ちゃんとうまい。それなりの牛肉を使っているから、肉汁がよくわかる。安い鶏や豚と同レベルに駄したチェーン店のものとは全然違い、牛肉としての上品さが感じられるのだ。
 佐祐理さんが牛丼の作り方をどこで覚えてきたのかは知らないが、あの人の事だから味覚とセンスで自己流の牛丼を作り上げてしまったんだろう。
 ただ、学食の味に近づけているとか、そういう雰囲気ではなかった。佐祐理さんが敢えてそうしているのか、それともああいう下品なうまさを再現できなかったのか、はたまた舞が佐祐理さんの伝授したテクを身につけていないのかは分からないが。
 ちゃ。
「ごちそーさん」
 箸をドンブリの上に置きながら、俺は言う。舞の方は、俺よりわずかに早く食べ終わっていた。
 満足な味とボリューム。もっとも、女の子の作るメシで栄養を偏らせている男も珍しいだろう…。
「祐一、お茶?」
「うん、そうだな」
 舞は空になったドンブリを持って、立ち上がる。
 俺もいい加減床に座っている姿勢に疲れてきたので、立ち上がった。身体のあちこちが少し痛い。
「ふーっ」
 食後の運動を兼ねて、軽く伸びをしてからストレッチ運動。疲れそうになる前にやめて、俺はベッドに座る。
 キッチンの方からは、しゅーっというヤカンの蒸気の音が聞こえてきていた。舞は律儀にガスコンロの前でお湯が沸くのを待っているらしい。
 ぼーーっとしたまま待つ。微かにしか聞こえない蒸気の音が段々高くなっていくのまで分かる。それがかなりの所まで来ると、かちっという音がして舞が火を止める。蒸気の音は一気に小さくなる。
 そんなことをしている自分がなんだかバカみたいな気がして、俺は自分の頬をパンパンと叩いた。
 そこに、舞が急須と湯飲みを持ってくる。
「サンキュ」
 舞は湯飲みを並べると、急須からこぽこぽと緑茶を入れ始める。舞が牛丼を作りに来るようになって以来、紅茶よりも緑茶を家に置いておくようになった。学食の、タダで飲める緑茶を思い出すというのもあったかもしれない。
「はい」
「おう」
 ずずっ。
 濃さのバランスとか、そういう事はあまり考えていないようだったが、普通の緑茶だ。変にその辺を気にするようになったのは、秋子さんの出す飲み物に慣れてしまっていたからかもしれない。最近は、東京にいた時の味覚に戻りつつあるが。
「ふぅっ」
「昨日は何時に起きたの?」
「健康的に7時だ」
 舞が片手をすっと上げる。
「朝の?」
「夜の」
 ぺしっ。
 間髪入れず、鋭いチョップが額に飛ぶ。
 お茶がこぼれそうになって、少し焦った。
 メシを食うと、こんな感じで他愛もない会話が始まる。
 舞がバッグをごそごそと探って、
「…佐祐理から」
「おっ、久しぶりだな」
 一枚のはがきで、久しく会っていない佐祐理さんの事を思い出したり…
「今日は結構涼しそうな格好だな」
「………」
 簡単に覚えられる舞の服のバリエーションについてしゃべって、舞がそっぽを向くのを見てみたり…
「祐一、勉強してるの?」
「…まぁ、一応な」
 働いている人間に言われると、学生という身分が妙に特権的に見えてきて、少しだけ反省したり…
 そんな、他愛もない会話だ。
 それが…
 …ぱさっ。
「祐一…」
 なんで…
「舞」
 深いブラウンをしたロングスカートが、未練を残すように一度膝のあたりで引っかかってから、床に落ちる。
 そして、舞はブラウスと下着だけという格好で、一歩一歩踏みしめるように俺に近づいてくる。
 舞の真っ白なブラウスの下には、同じくホワイトのブラジャーしかなかった。ややもすると下着が透けてしまいそうな着こなし。誰に教わったのかはわからない。ただ、どこか危うさを感じさせる、清楚と媚態の中間点は意外と舞に似合っていた。
 俺は、ベッドに座ったまま、舞の事を見上げる。
 いつも、なんでこうなるのか、分からない…
「祐一」
 また舞が言う。
 そして、舞は俺に覆いかぶさるようにふわりと倒れ込んできた。
「ん…」
 ベッドに二人で転がりながら、キス。舞が上だ。
 舞の舌が自分の唇を割って入ってくるのを感じながら、俺は舞の背中に腕を回した。舞もそれに応えて、唇をより強く押しつけながら俺を抱きしめる。
 ぬるっとした感触。俺の舌に舞の舌が重なった。そこまで来て、やっと俺は自分でも動き始める。俺の口腔の入ってきたもののあまり上手く動けていない舞の舌を、押し上げるようにくいくいと刺激する。
「んはっ」
 吐息を漏らしそうになって止まる舞の舌を、俺は少し強引にこねくり回した。それから、抱き合った身体をごろんと半回転させて、俺が上になる。
 舞は苦しそうな切なそうな瞳を見せながら、抱きしめる力をますます強めた。こうなると、舞は自分でキスを続けられない。
 俺は舞の舌を押し返すようにして、そのまま舌で舞の唇を割る。舞は全く抵抗せずに俺の舌を受け入れた。力が抜けてしまったようで、舞の舌はくたっと柔らかくなってしまっている。でも、腕の力だけはアンバランスなまでに強かった。まるで、何かをつなぎ止めるかのように。
 動きのない舞の舌を、俺は優しく愛撫する。小さな少女のようにおとなしくなってしまったそこを、舌先で軽く撫でていく。
 俺達の感じていたのは、当然お茶の味とかすかに残った醤油の味。現実的で庶民的な刺激だ。それに比べれば、俺達の行為は甘美にすぎたかも知れない。
「はぁ…」
 キスを終わらせると、舞はため息のような息を吐き出した。
 身体を起こして、俺はベッドからとん、と下りる。そして口元の唾液をぬぐう。舞は右手を額の所に持って行って、夢見るような目で寝転がっていた。唇の周りは、俺と舞の唾液でてらてらと光ったままだ。
 俺は、最初と同じようにベッドに腰掛けた。
「舞、こっち来てくれ」
「…わかった」
 少しだるそうな動きだったが、舞は起き上がる。別に嫌がっているわけではない。単に、身体がふわふわとした感覚に包まれているだけだろう。
 ベッドを下りると、舞は横に移動してから俺の膝の上にすとんと座る。髪の毛の幾筋かが俺の頬をかすめる感触が感じられた。飾り気のない、清潔な舞の髪の香りも。今の舞は高校の時と同じ長さの髪をそのまま下ろしているのだ。
 ちょっとした動作でもさらさらと揺れる綺麗な髪に顔を埋めながら、俺は舞の胸に手を伸ばした。
 二枚の生地の上からもはっきり分かる膨らみを、両手で包み込む。それでも少しはみ出るくらいの大きさはあるのだ。
 俺は、ぐっ、ぐっと最初から少し強めに揉み始めた。服の上からだから、そうしないと俺も舞も行為を感じられないのだ。それに、多少強すぎる刺激をしても服が吸収してくれる。
 下から大きく揉み上げるようにしていくと、布地の少し乾いた感触の下に、まぎれもない柔らかな感触があった。豊かな舞の膨らみを楽しんでいると、舞が身体を少しよじらせる。
 俺は乳房への愛撫を止めて、舞の下半身へと手を動かしていった。
「………!」
 もどかしそうな仕草を見せていた舞の身体が、突然硬直する。俺は構わず、ブラウスの裾を上げて舞のショーツに触れる。いつもの通りの、紋様などが感じられないシンプルなショーツのようだ。生地が平らで装飾がない事は、指先だけでも十分判別できる。
 俺は割れ目の筋があると思(おぼ)しき辺りを、上下にしゅっしゅっと擦(こす)った。初めだけゆっくりと、すぐに速く。溶き卵を作るときみたいな、せわしないスピードで。
「……!祐一…!」
 舞が押し殺した声を上げる。ショーツの上から表面を擦っているだけなのだから、性感が激しく刺激されるという事はないだろう。それでも、俺のスピーディな行為は舞の焦燥感を煽り、やがて熱い感覚に火をつけるはずだ。
 ぐっと、ショーツの上から指を秘裂の間に押し込むと、
 じわっ。
 ショーツを液体が濡らす感覚があった。
 舞はうつむいた。後ろからみてもはっきり分かるくらいに。
 もう少しだけくにくにとショーツを指で押し込んでから、俺は後ろの方に手を伸ばして枕をはねのけた。
 その下には、ピンク色のけばけばしいローターが隠してあった。
「…ゆ、祐一…?」
 俺が何かしているのは分かるのだろう、舞が不安そうな声を上げる。
 スイッチ部分をつかんで、シンプルな二段スイッチをカチッとONにする。
 ぶいん…
「…!?」
 舞が後ろを振り向こうとしたが、俺は舞の秘部を軽く叩き、制止した。
 今度は、ベッドに埋もれて振動するローター部分をつかむ。手の先にくすぐったさを感じながら持ち上げると、触れるものが少なくなったぶん、振動音が上がる。
 俺は再び舞の背中に向き直ると、ローターを舞の身体の前の方に動かしていった。
 視界にローターが入った瞬間、舞は反射的に逃げようとする。ローターと逆の手で、それを押さえる。そして、未だ服に包まれている胸にそれを当てる。
 …ぶぶ…
「あっ!」
 舞が身体をびくっと震わせる。
 …ぶぶ…ぶっ…
 円を描くようしてローターを使う。乳首のある辺りにも押しつけてみる。初めての体験だったので、俺は指で強くローターをつまみ、振動を少し抑え気味にしていた。
 それでも、舞は身体をぶるぶる震わせていた。振動するものが当てられているからという事もあるだろうが、それ以上に感じてしまっていると見ていいと思う。舞がこんな反応を示す事など、滅多にないのだ。
 俺はローターを素早く秘部の方に移動させた。
 指でやろうとした時と同じように、いやそれ以上に舞の身体が硬直する。俺ははやる好奇心を抑えつつ、ローターをショーツの真ん中に当てる。
 …ぶん…
 湿っているせいか、陰になっているせいか、俺に聞こえてくる音が少し低くなった。
「あ…!あ…!」
 舞が初めて、かすれた喘ぎ声ではなく、声帯を震わせた嬌声を発する。
 俺は身体を舞に押しつけていたため、その声が頭の中に響いていくような感じすら受けた。「ぐわん」とした欲望が、俺の中に高まっていく。
 ローターを秘裂に沿って上下させる。さっきのようにスピーディな動きではなく、今度は思い切りスローペースの、いたぶるような動かし方だ。秘裂全体に、心ゆくまでローターの振動を味わってもらうことにする。
 当てた時すぐには気づかなかったが、舞のショーツはさっきよりもずっと濡れていた。液体が染みたというレベルでは済まない、はっきりぐちょっと濡れてしまっている。胸にローターを当てていただけなのに。
 俺は段々とローターをつまむ指先に入れる力を弱めた。そうすると、必然的に振動は強くなる。舞の秘部を刺激する力が、ますます強くなる。俺は指を伸ばして、愛液が既に太股から垂れ始めている事を確認した。
 そしてふと思いついて、ローター部分をつまむのではなく、そこから伸びているコード部分を持つ。それで、振動するローターを舞の秘部に這わせる。「いぬのさんぽ」みたいに。
「ああーっ…!?」
 舞が切羽詰まった声を漏らした。このローターを使って感じられる振動の中で、最も強いものが今与えられている。指でつまんでいる時みたいに上手く動かないから、不規則に動く。それが、さらに舞の気持ちを煽ったのかもしれない。
 ビクッ…
 舞がかくんと顎を垂れる。
 少しイッたらしい。


 舞が、俺のモノをくわえている。
「ん…ふぅ…ぅ」
 –––舞はいつも自分の反応を極度に押さえ込もうとする。夜の校舎で俺が抱いて以来、いつもだ。
 舞が長い髪の毛を振り乱して頭を振り、口全体を使ったしごき立てをする。もう俺の限界は近かった。
 –––俺に対しては、舞は何でもする。
 今度はカリの部分だけを口に含んで、舌を思い切り使ってなめ回された。俺がモノの先から分泌する液体を、舞は舌ですくってしまう。
 ぶぴゅっ。
 たまらず俺は放出した。
 舞が浅くくわえていたため、俺の放った白濁した液は舞の顔にかかる。俺のモノが脈動する度、舞の口の周りから前髪のところまで、べとべとになっていく。
「………」
 口を半開きにして、舞はそれを受け止める。目には小さく笑みすら浮かんでいた。
 脈動が止まると、舞は俺を上目遣いに見ながら精液を丁寧にこそげ取って舐め始めた。責めている目ではない。さすがに感謝しているという程ではなかったが、どこか嬉しそうというのは否定できない。
 全部綺麗にしてしまうと、何も言っていないのに、舞は俺と反対の方を向いて四つん這いになった。
 豊富に愛液を湛えた性器が、俺の前にさらけ出される。
「入れるぞ」
「…来て」
 俺は全然小さくなっていない自分のモノを、舞のヴァギナにあてがった。
 出したばかりなので、痺れるような痛いような快感が走る。もっとインターバルを置いた方がいいかもしれない。
 だが、俺は一気に舞の中に突き入れた。
 ぬちゅっ、と音がする。だが、俺も舞も声を上げなかった。ぬめった水音が部屋に小さく生まれただけだ。
 ぬ…ちゅっ。ぬ…ちゅっ。
 抜き差しすると、それに応じて音がする。ちょっと痛いくらいの快感が走る。
 ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅ…
 本格的に抽送を開始すると、音の間隔は当然短くなる。しかし、それだけだった。誰も見ていないところでいやらしい音だけが聞こえているのだ。それは滑稽な音だった。
 –––くそっ!
 俺は舞の身体の下に手を伸ばし、舞のクリトリスを探す。
「あぅ」
 触れた瞬間、舞は小さく声を出した。
 身体と身体が大きく動いているから、微少なその部分をいじるのは極めて難しい。それでも、俺は執拗にクリトリスへの刺激を加えた。ここを刺激して快感を感じない事はあり得ないのだが、舞の顔が見えないから分からない。
 そっちに集中しているうちに、いつのまにかモノは普段の感覚に戻ってきていた。痛みや痺れは消えて、突く度に熱く心地よい快感が感じられる。俺は普段通りに腰を振り始めていた。
 俺自身の身体が高ぶっていたのは間違いないようで、俺はまたすぐに射精感を覚えてしまう。
 舞は…?
 それを判断する余裕は無かった。俺は、射精の直前でモノを引き抜く。
 ぴゅっ、ぴゅっ。
 舞の背中の上に、さっきよりは薄く量の少ない精液がほとばしった。舞は四つん這いの姿勢のまま、黙ってそれを受け止めている。


「…祐一…良かった…?」
「ああ、すげー良かった」
 舞が、俺に寄り添ってくる。俺達は、一枚だけ布団を掛けてベッドに寝ていた。
「舞は…?」
「私も…」
「そうか」
 俺は腕や胸に触れるさらっとした舞の髪を感じつつ、天井を見つめた。
「祐一…愛している」
 舞の声。
「俺もだ、舞…」
 言ってから舞の髪に手を伸ばし、撫でる。長い間、撫でる。
 それから数日後、東京の佐祐理さんから俺宛に手紙が来た。
 今年は帰れないという事を詫びる内容で、
 最後の文は「舞をよろしくお願いします」だった。