サッキュヴァス・セリカ 〜淫魔の呪い〜 その5


(この文章は、ファンタジーノベルスの文法に慣れている方にお薦めします(^^;)

 ちゅぷっ。
 セリカが絶頂から解放されると、ようやく志保は挿入していた指を抜いた。セリカは息も絶え絶えになって、快感の余韻に浸る。ふわふわとどこかに飛んでいってしまいそうな、激しくも心地よい性感だった。犯された時とも、自慰をした時とも違う。同性の匂いも、全く気にはならなかった。
 これまで性行為をしてきた時に感じていた虚脱感や罪悪感とは無縁の満足感がセリカを包む。
「じゃあ、次は…」
 だが志保が何事か言おうとした瞬間、セリカの身体の中から不可思議な感覚が沸き上がってきた。
 それは一瞬にして、何か気体状のものが体内から抜け出ていく感覚になっていく。ある種の魔法を使った時に感じる感覚にも近い。
「ん?どうかしたの?」
 セリカは半開きだった目をはっきりと開いて、志保の後ろの辺りを見ていた。不可視の気体は、その辺りにわだかまっているように思えたのだ。
「早くして欲しい?」
「………」
「え?なに?」
 ヴン…
「……!」
「えっ?うしろ?」
 志保が一体なんだと言わんばかりに、面倒くさそうな動作で後ろを向く。
 しゅばっ!
「え!」
 志保の手に、グロテスクなピンク色をした細い触手が絡みつく。
 しゅるっ…しゅるっ、びしゅっ!
 一本だけではない。瞬く間に二本、三本と生まれた触手が志保の手足を、そして全身を絡め取っていった。
「い、いやっ!なにこれ…」
 志保の動揺した声。セリカは慌てて呪文を詠唱しようとした。しかし、虚空から生まれ出た触手は一瞬にしてベッドに寝ていたセリカをぐるぐる巻きにしてしまう。一瞬にして生まれた無数の触手が、志保を拘束した時よりもさらに素早くセリカを縛(いまし)めたのだ。
 二人の身体は、ゆっくりと宙に浮かばされていく。
「な、なに、これっ!アンタ、魔法で何とかならないの!?」
「……ぐっ」
 志保が叫んだ瞬間、セリカの口に触手が突っ込まれた。セリカは苦しそうな声を上げながら、その口腔陵辱に耐える。とても呪文の詠唱など出来そうになかった。
 しかも、気づかないうちに周囲の魔素が極端に減少していた。呪文の詠唱なしでも魔法は使えるが、これでは魔法自体が使えたものではない。
「い、いやっ、殺されるっ」
 志保が暴れようとするが、その拘束は完璧だった。抜け出すことなど不可能だ。
「やっぱ、最初に会ったときから変な奴だと思ってたのよ!スケベのシュミも変だし…巻き添えで殺されるなんて…」
 まくしたてながら、それでも暴れる。殺されると言っている割には緊張感のない言葉だったが、本人は真剣だ。
 ぬぷっ。
 触手が志保の肌の上を這い始める。
「ひーっ!殺される…し、死ぬまでにもっといい男に一度抱かれてみたかったっ…よりによって、最後の相手が女なんて…あれ」
 志保が抜けた声を上げる。触手が、自分の秘裂に侵入してきたのに気づいたようだ。同時に、胸の膨らみにも触手が這い上がって、うねうねと刺激し始めている。
 セリカは志保の方を向いた姿勢で宙に浮かされていたので、その様子がよく見えた。触手が口の中に入れられてはいたが、動き自体はそれほど激しくもない。口の中に感じる不快な感触と臭気に耐えさえすれば、落ち着いて見ている事が出来る。
「こ、殺すならもっとマトモなところ…」
 どぷっ…と音がする。触手が、大量の粘液を吐き出したのだ。三箇所の鋭敏な感覚器官は、触手の出した半透明の液体に覆われる。
「な、なんなのよこれ」
 ようやく志保も様子がおかしい事に気づき始めたようだった。まごついた声を上げながら、自分の身体に為されている行為をじっと見つめる。
 液体に覆われた部分は、じんわり熱を帯びていた。覆われている部分が部分だけに、その熱はどんどん浸透して体内の感覚器官を目覚めさせずにはいられない。その感覚器官がなんであるかは、志保自身が最もよく熟知していた。
 触手がぐりぐりとそこを撫で始めれば、何が行われているのかは明白になってくる。
「うっ…な、なんで」
 志保は身体をよじらせようとした。それすらも拘束の中で許されはしなかったのだが、先ほど暴れていた時と感じているものが違ってきているのは明らかだ。
 一度行為の意味を認知してしまえば、性に成熟した志保の身体が行為をはねつけるわけがない。本人はまだおぞましさを感じているようだったが、性感自体はどんどん高まっているようだった。次第に尖り始めた二つの乳頭と、秘裂の中のクリトリス。触手の動き自体は全く同じペースなのだが、刺激されている部分が固くなればなるほど、生まれる摩擦は強くなる。
「あ…」
 程なく、志保は自らのヴァギナからとろりとした液体を漏らし始めてしまった。その瞬間が感じられたのか、志保が悔しそうな恥ずかしそうな声を出す。
 触手の出した粘液と愛液は混ざり合って、すぐにぽたぽたと垂れ始める。それははるか下の床に落ちて水たまりを作っていった。志保も愛液の量はかなり多い体質らしく、滴り落ちるという形容がふさわしい程に液体が零(こぼ)れている。
 ついに志保は観念した表情になって、抵抗を完全に諦めた。それを見極めたかのように、触手は志保のヴァギナに狙いをつける。細い触手も、三本束ねられて並みのペニスでは追い付かないほどのサイズになっていた。
 にゅるん…
 しかし、それを志保はあっさりと受入れる。
「ひ…はぁっ…」
 どこか安心したようにすら聞こえる声を出して、志保は完全に触手に身を委ねていた。じゅぶじゅぶと音を立てる高速のピストン運動に加えて、乳頭とクリトリスへの刺激も続けられている。
 志保はぼうっとした目で天井を仰ぎ、うっすらと涙すら浮かべて快感を感じていた。無数に男のペニスを受け入れてきたヴァギナは、抽送だけで十分な、あるいはクリトリスよりも鋭敏な性感を感じさせるらしい。もはや志保の頭はセックスで一杯になっていた。
「………」
 セリカはその一部始終を、どこか好奇心のような物を感じさせる瞳でずっと見ている。
 触手はさっきから、セリカのクリトリスを時折優しく刺激していた。志保に剥かれた部分であるからそれだけでも跳ね上がるような快感なのだが、触手はセリカが落ち着きを保てるレベルの、ぎりぎりのところでクリトリスを撫でるのである。
 ちょうどよい気持ちよさに包まれながら、志保のあられもない姿を見ているセリカの姿は、触手に襲われているという事態をまるで忘れているように見えた。少なくとも、セリカは既に危機感をほとんど感じていなかったのは事実だ。
 じゅぶ、じゅぶっ…じゅぶじゅぶっ!
 触手が志保を突く速度が増してきた。クリトリスを触る触手の動きも活発になってくる。液体を飛び散らせるほどに激しいその動きは、百戦錬磨の娼婦である少女を一気に追いつめていく。
「イク…」
 志保が濡れた唇からつぶやいた瞬間、志保は性感を爆発させた。
 ビクッ!ビクッッ!と身体が痙攣するのが触手の拘束によって締め付けられ、抑えつけられた切ない絶頂が志保の身体を駆け抜ける。触手は志保の性感帯をかすかなタッチで撫で続け、さらに性感を煽った。
 だからなのか、志保の絶頂は数分間も続いた。
 そして、触手がふっと宙に消えていく。志保とセリカの身体は、同時にベッドに落とされる。
「…!」
 辛うじて浮遊魔法が間に合った。二人の身体はベッドに軟着陸する。
 いつの間にか魔素は回復していた。ただ、それにセリカが気づいていたわけではない。落下するのを見て反射的に魔法を使ったら、いつも通りに魔素が戻っていたのだ。
 志保は多少顔をしかめたまま、目を閉じていた。
「………」
 セリカは声を掛けて、つんつんと指先でつつく。だが、反応がない。
 どうやら、気絶してしまったようだった。
 多少心配にもなったが、呼吸は規則正しい。このまま寝かせておけば、恐らくそのうち目が覚めるだろう。


「ただいま」
 一通り後始末を終えたセリカの所に、ミュークが帰ってきた。
 セリカは別の部屋を取って、志保はあの部屋でそのまま寝かせておく事にしたのだ。テーブルの上にはもう一つ宝石を乗せておいた。
 粘液をふき取って、身体の上に布団を掛けても志保は全く起きなかった。セリカは不安に駆られたが、志保が起きたらかえって面倒な事になりそうにも思えたので、ほっとしたのも事実である。
「でも、セリカって縛られるの好きだったの?」
「…?」
「だって、あの子やっちゃうだけで十分でしょ?なんで自分まで縛ったの」
 やはり、とセリカは思わずにいられなかった。あの触手は自分が出したものだという予感はあったが、確信にまでは至っていなかったのだ。
「………」
「ふぅん、まだコントロールできないんだ。ま、すぐ慣れるよ」
「……」
「自然に覚えてくよ。ところで、セリカはもう満足したの?中途半端なとこで終わっちゃったみたいだけど」
 言われてから初めて、セリカは触手にクリトリスをいじくられただけで終わっていた事を思い出す。
「ほら。オナニーするならしていいよ、ボク出て行くから。あのコみたいに、いっつもエッチの事ばっかり考えるようになんなくちゃね〜」
「………!」
 志保はスタッフでミュークを叩こうとする。
「じょ、冗談だってばっ」
 ミュークは慌てて飛び跳ね、それをかわした。
「わかったよ、寝よう。セリカ」
 こくん。
 セリカはマントを外し、スタッフを壁に立てかけてベッドに向かった。相変わらずきぃきぃときしむベッドだったが、それでもセリカは心地よく睡眠に吸い込まれていった。


 翌朝、セリカは早々に目覚めると朝食も取らずに宿を出た。
「お腹空いちゃうよ」
「………」
「そう」
 結局、朝から店を出していた屋台で固焼きのパンを買うのが朝食となる。さすがに何も食べずに歩き続けるのはセリカにとっても難儀なようだった。もちろん歩かずに浮遊魔法を使う事も出来るが、明確な目的があるわけでもないのに急ぐ必要はない。セリカは歩いて旅をする時に見える風景をそれなりに楽しんでいるのだ。
 それに、ショールゥの洞窟やら昨日の盗賊団やらで魔力をある程度使っている後だ。さっさと回復させるためにも、無駄な魔力を使わない方が賢明と言える。
「おいしいの?それ」
「……」
「なんか、まずそう」
「………」
「ふーん」
 歩きながらセリカは少しずつそれをかじる。十分すぎるほどに噛んで食べているので、半分減るまでに街の入り口まで来てしまっていた。
 どこの街でも同じような門番の姿を横目に、門を抜ける。
「今日には国境につくの?」
「………」
「いい加減だなぁ…別にいいけどね」
 国境を破ったのが見つかればそれなりに大事になるかもしれないが、自警団に頼まれた仕事を失敗した事自体で追われるなどという事はまずない。それに、旅費もたっぷりあった。国境を越えるまでは、特に焦る事もないのだ。
 セリカはミュークと並んで、街道を歩き始める。
「待ちなさぁぁぁぁぁぃっ!」
「……」
「うわ」
 セリカ達が今抜けたばかりの門の方から、叫び声が飛んでくる。砂埃すら立てて駆けてくるその姿は紛れもなく志保だった。
「復活、早いね」
「……!」
 セリカはスタッフで地面を叩くと、ミュークと一緒に宙に浮かび上がる。
「ちょっと!逃げる気っ!?」
 一瞬困った顔をして志保の方を向いたものの、セリカは街道の上を加速し始める。
「説明しなさいよっ!せ・つ・め・い〜っ!」
 怒鳴る志保の声がどんどん遠ざかっていく。
「どうやって説明しろって言うんだろ…」
「……」
「確かに逃げて賢明かな」
 ミュークがもう見えなくなりつつある志保の方を見ながら言う。セリカはパンをかじりながら浮遊魔法を適当にコントロールしていた。それほど速い術ではないが、人間をまく程度なら十分なスピードだ。草原の中を突っ切っている街道を、20km/h程度でゆったり進んでいく。時間が速いせいか、街道を歩く旅人の姿はほとんど見えなかった。
 志保が完全に見えなくなってからだいぶ経ったところで、セリカは術を解く。とん、と音を立てて道に降り立ったセリカは、ようやくパンのひとかけを口の中に放り込んだ。
「あのコ、馬車にくっついて来ているって言ってなかったっけ?どこまで追っかけてきたのか知らないけど、大丈夫なのかな」
 思い出したようにミュークが言う。
「…………」
「どうだろ。意味もなく延々と走り続けてたりして」
「……」
「ま、いいんじゃないの。お礼はたっぷりあげたんでしょ」
 こくん…とうなずいてから、昨日の事を思い出したか、セリカはミュークから目をそらせて歩き出した。
「変なとこで会わないといいね。別な国に行けば会ったりしなくなるだろうけど」
 セリカははっきりと返事をする事はしなかったが、志保と会話をすると疲れるという点では同意しているようだった。元々会話が苦手だといった問題とは無関係に、自分のペースで延々と話が続いていくから大変である。
 もっとも、セリカの場合は相手の事を考慮に入れて話し方を考えたりするより、自分の伝えたい事を単刀直入に言った方が話しやすい。相手の事をいろいろ考えて話をしたりしていると、聞き返されたり誤解されたりで話がまるで進まなくなるのだ。
 元々、どうしても必要な相手に用事を伝える時ぐらいにしか話をしない人間なのだから、それでよいのだが…


 セリカとミュークは、まだ日が高いうちに次の街にたどりついていた。
「国境まだだったね」
「……」
 セリカの記憶が正しければ、国境に着くまでにもうひとつ街があるという事はないはずだった。
「明日かな」
 こく。
 セリカは街の門を見ながらうなずく。昨日、一昨日の街に比べれば一回り小さい街かもしれない。今日歩いてきた街道は途中で別れていたから、商売をする人間はこの街ではなく別の街の方に行くという事なのだろう。この街は国境の最前線の街なのだ。
 だからなのか、街の規模に比べれば城壁は立派で、門番の兵士も、いかつい顔をした男がきちんと二人立っている。セリカはやや気圧されるものを感じながらも、その横をすり抜けて街に入っていった。
「だいぶ違うね」
「……」
 確かに、目に見えて人の数は少ない。旅人と思しき人間はほとんどいなかった。代わりに兵士と思われる人間の数が多い。その多くは街の東側に向かっていくようだった。
「どこ行くんだろ」
「……」
「なるほど」
 恐らく練兵場があるのだろう。セリカは実際に中に入ってみた事はなかったが、中からやたらとかけ声や走り回る音がしてきたのは近くで聞いたことがある。そういうのを聞くとどうも怒鳴られているような気分になってきて、セリカはそそくさと立ち去ったのだが。
「だって、セリカが魔法使えばこんな街の兵隊なんて一発でしょ」
「……」
「そうだけどさ」
 セリカはミュークと話しながらも、宿がどこにあるのか探そうとしていた。こういう街では宿の数もそれほど多くないだろうし、あるとしても一部の場所に偏っているかもしれない。
「歩いてみればいいんじゃない?適当に」
 まだ日が沈むまではだいぶありそうだった。
「……」
 セリカはとりあえず、練兵場とは逆の方向に歩いてみる。少なくとも兵士の宿舎に近い方が商業地区に近いだろうと判断したのだ。
 その判断は正解だったようで、ほどなく小さいながらも商業地区が見つかった。ただ、あまり盛況ではない。この時間は、一番の買い手である兵士が練兵場に行っているという事なのだろう。さっき見かけた兵士達は昼の休憩にここで休んでいた最後の連中だということだ。
「いい宿、あるかな?」
「……」
 セリカもあまり期待はしていなかった。夜に騒ぐ兵士でうるさい宿は避けようというくらいの気持ちはあったが。
「じゃあ大きい酒場つきはパスだね」
 こく。
 少しくらい食事のレベルを落としてでも、夜に静かなところを選んだ方がよいとセリカは思った。そのためには、普段よりもあちこち宿を探して歩き回らなければならないわけだが…
「…?」
 ふと、セリカの頭を何かがよぎる。
「…どしたの?」
 セリカはきょろきょろと辺りを見回した。その目が、ある一点で止まる。
「おや」
 セリカの見ている先には、一人の少女の姿があった。紫色のローブに全身をすっぽりと包んだ、小柄な少女。髪の毛はだいぶ長かった。
 店と店の隙間にうずくまって、憔悴した表情で地面を見ている。店の影になっているのでよくわからなかったが、顔色もあまり良くないようだった。
「あの子が今日のターゲット?」
 ぽかっ。
「いたいよ〜」
 セリカはスタッフでミュークを叩く。ミュークはわざわざ泣き真似までして痛がっていた。
 そのミュークを放っておいて、セリカはなぜ彼女に目がいったのか考えてみる。理由は単純だった。一瞬、魔素探索に引っかかったような気がしたのだ。それも、強烈に。
 だが、今見ている限りではそんな素振りは微塵もなかった。ただ、行くあてを無くしている少女といった様子である。そんな人間はどこの街にでもいるし、セリカも気に留めて歩いたりはしない。
 なのだが、一度気になってしまうとどうにも意識から彼女の事が頭を離れなかった。
 セリカは一歩ずつその少女のところに近づいていく。向こうの方は全くセリカに気づいていない。ミュークもセリカを追って歩いてきていたが、当然ミュークにも気づかない。
「……」
 数歩離れたところで、セリカは出来るだけ大きい声で呼びかけた。
 …当然、気づかない。
 ニャーオ。
 その時、ミュークが鳴き声を出した。少女はかすかに顔を上げる。
「……」
 セリカは二・三歩進んで、今一度少女に呼びかけた。
「なんですか…」
 力無い声だった。何もかもやる気をなくして、ただ死を待っているような。
「………」
「結構ですから…構わないでください」
「…………」
「私に近づくと、きっと不幸になりますから」
 セリカの小さな話し声が聞こえているのか聞こえていないのか、その少女は言った。
「……」
 なおも話しかけるセリカを何としても無視するかのように、少女はまた下を向いてしまった。
「………」
 しかし、セリカは話しかけ続ける。話の内容が相手に聞き取れているのか聞き取れていないのか分からないセリカの声は、こういう時むしろプラスになるようだった。話している内容に対する文句が飛んでくる事はないし、セリカが真剣に話しているのだという事は伝える事が出来る。
 もちろんセリカがふざけているのだと思う人間は怒るだろうが、この少女はそこまで短気な行動を見せる事はなかった。
 しかし、
「お願いですから、構わないでください…」
 そうしているうちに、ついに少女は立ち上がってしまった。辛そうな顔でセリカの顔を見てから、歩いていこうとする。
「お願い、ですから…」
 一歩、一歩と歩くその足取りは見るからに危なっかしい。どう見ても身体の調子をおかしくしているとしか思えなかった。今にもローブの裾に自ら足を取られて転びそうな様子である。
「……」
「あ…」
 見かねたセリカが、少女の手を取った。
「……」
「駄目なんです…」
 少女はセリカの手を振りほどこうとしているようだが、その力すらないようだった。二本の足で立っているのがやっとなのだ。
「……!」
 セリカは少女とミュークを巻き込んで浮遊魔法を発動させる。
「助けてあげるんだ」
 傍観していたミュークがのん気な声を上げる。
「……」
「まぁボクはどうでもいいけどね…宿、どこかな」
 セリカはきょろきょろと辺りを見回しながら、普通に走る程度のスピードで空中を移動していく。通行人はまばらだったが、物珍しげにセリカ達の事を見ていた。浮遊魔法を使っている魔術師はそれほど珍しくないとしても、倒れかけた少女とネコが一緒に浮かんで移動している魔術師というのは珍しいだろう。
 少女の方は、もはや完全に目を閉じていた。気絶したのかどうかは定かではなかったが、浮遊魔法に姿勢制御も含めてあるから体勢がおかしくなる心配はない。
 その状態で商業地区をうろつき回ったあげく、やっと宿が見つかる。宿自体の数が少ないようなので、選り好みをしているヒマはなかった。
 セリカは地面すれすれの所を滑るように移動して、宿の中に入っていく。
「いらっしゃい」
 宿屋の受付にいる人間は、多少物珍しそうにセリカ達の事を見つめながらも普通に応対した。宙に浮いたまま宿帳に名前を書き込み、言われた部屋に宙に浮いたまま向かっていく。
「ま、適当に選んだ宿の割には悪くないんじゃないの?」
 こくん。
 確かに、宿の規模もそれほど大きくはないし、入り口から見える酒場兼食堂の大きさもそれほど大きくはない。内装は、派手さは無いもののそれなりにさっぱりとしていた。セリカにとっては申し分ない宿と言える。
 階段も浮遊魔法を維持したまま、三階の部屋まで上がっていく。上がっていく途中でも、他の客に会うことはなかったし、二階の部屋にも客の気配はないようだった。やはり、まだ宿に入るには早い時間帯のようだ。
「あれだね」
 セリカ達の部屋は、三階の左側だった。廊下の右には二つドアがあるのに、左側には一つしかドアがない。
 かちゃっ。
 ドアを開けると、普通の部屋の二つぶんのスペースの部屋だと言う事がわかる。倒れている人間がいるのに一番入り口から遠い部屋があてがわれた理由はこれだったようだ。
 二つ枕が並べられた大きなベッドにセリカは近づく。途中で浮遊魔法の対象からセリカとミュークを外して、少女をベッドの上にうまく寝かせる格好になるように誘導していった。
 ばふっ。
 そして、最後に魔法を解くと少女はベッドに横たわる。
「お疲れさま」
 ミュークが言ったが、セリカはすぐに少女の様子を確かめた。呼吸はきちんとしているが、顔色が悪すぎるし、苦しそうな表情をしている。意識はどうやら失ってしまったらしい。
「………………!」
 セリカが呪文を唱えると、空中にブルーの半透明である液体が出現する。
「………!」
 ぴきっ!
 それが床にこぼれ落ちる前にセリカはスタッフで円を描いて、魔法を発動させた。一瞬にして液体は凝固し、薄いブルーの色をした丸薬のようなものになる。空中でセリカはそれをキャッチした。
 そして、少女の方を一度向いてから、テーブルに向かう。そこにはピッチャーに入れられた水があった。
 その水をコップに注いでから、再び少女のところに戻る。
「……」
 セリカは軽く少女の身体をゆすったが、起きる気配はなかった。
 仕方なく、セリカは慎重に丸薬を少女の口の中に入れて、水を少しずつ流しこむ。
「…けほっ!げほっ!」
 少女は激しくせき込んだ。セリカは慌てて少女の身体を横にして、水を吐き出させる。丸薬もうまい事口から転げ落ちた。
「あーあ…もうちょっと、魔法で簡単にいかないの?」
「………」
「ふーん」
 セリカは困った顔をしながら少女の事を見つめる。だが、結局諦めたようにテーブルの方に向かった。そこには、厚めに織られた白い布が置かれている。身体を拭いたりする目的で置かれているものだ。
「それでどうするの?」
「……」
 セリカはピッチャーの水を垂らして、その布を濡らしていく。
「古典的だね…大丈夫かな」
「……」
 布の水を絞ってから、セリカはベッドに戻って少女の額にそれを乗せた。その瞬間も、少女は何も反応せず、ただ苦しそうな表情を浮かべているだけである。
「起きてるうちに何か飲ませてあげればよかったね」
 こく。
 セリカはベッドの逆側に回って、そこに腰掛けた。
「で、起きるまで待ってるの?」
 こくん。
「気長だねー…頑張って」
 ミュークはテーブルに飛び乗り、そこで丸くなった。
「でもさ、このコなんて言ってたっけ?構うと不幸になるって?」
「……」
「どんな不幸になるってんだろ…何かに追われているのかな」
「……」
「ま、どんなのが来てもセリカがやっつけちゃえばいいよ」
 こくん…
 セリカは未だ辛そうな少女の事を見ながらうなずいた。


「……」
 日も沈む頃になって、何の前触れもなしに、少女が小さく目を開いた。
 もっとも、全く前触れが無かったとは言えないかも知れない。少女の表情は時間を追うごとに安らかなものになっていったし、呼吸も静かになっていったからだ。
「………?」
 その様子を最初からセリカはずっと見ていたから、目を開いた時にすぐ声をかけた。
「助けてくださったのは…」
 そこまで言って、少女は力無くせき込んだ。体力が回復する要因はほとんど無かったのだから、まだ調子が悪くて当然だろう。
「…………………!」
 セリカは空中にブルーの液体を呼び出し、
「………!」
 さっきと同じように凝固させて、空中でつかんだ。手でずっと持っていたカップの水と一緒に、少女の前に示す。そして、そっと丸薬を少女の口の中に落とした。
 それから、ほんの少しずつ水を注ぎ込む。
 こく…
 どうやら、うまく飲めたようだった。セリカはほっと息をつく。
「すいません」
 少女は霞みのかかった瞳でどこかを見つめながら、つぶやいた。
「……」
「助けてくださったのは、ありがとうございます…でも…きっと、あなたを不幸にする事になります」
「………?」
 セリカは出来るだけ少女の耳元でしゃべるようにして、訊く。
「だから、そうなる前に私は出ていきます」
 一方的に宣言して、少女は立ち上がろうとした。
 セリカは少女の腕をつかんで、視線で訴える。
「駄目です…」
 視線を動かさず、じっと少女の目を見つめる。
「………」
 ばたっ。
 セリカと少女が、それほど年格好の違わない外見をしていた事もプラスに働いたのだろうか。少女はベッドに再び横たわった。
 そもそも、ほとんど倒れ込んだようなその動作を見れば、まだ動けるような状態ではないのは明らかなのだが。セリカは少女の額から落ちた布をさっきと裏返しにして乗せる。そして、布団を掛け直す。
「きっと、不幸になります」
 少女はまた言った。
「………?」
 セリカはもう一度耳に口を近づけて、問う。
「知らない方がいいんです…誰にもどうすることもできない事ですし、いつ来るかも分からないんですから」
「…………」
「これまで、何人の人が私のせいで不幸になってきたことか…これ以上、そうなる人を増やしたくないんです」
 声に力は無かったが、きっぱりと言い切った。
 セリカは少女の事を見つめつつも、それ以上問う事をやめる。何にしても、少女が身体の調子を戻す事が先決だと思ったのだ。眠りなさい、とだけセリカは伝えた。
「すいません」
 耳元に口を近づける事はしなかったが、少女には伝わったようだった。少女は、セリカの事を辛そうな目で見つつも瞳を閉じる。
 ただ、その辛さは身体の不調から来るものではなくなったように思われた。セリカに対する申し訳ないという感情から来るものだ。
 そんな感情を他人から抱かれる経験は、セリカにとって慣れないものだった。気にする必要もない事なのだが、どうも照れくささや変な嬉しさが浮かび上がってきてしまう。
「あの薬飲めば大丈夫なの?」
「……」
「じゃあ、次起きる時にはもう元気かな」
「………」
 セリカは腰掛けたベッドから立ち上がり、テーブルの方に近づいていく。
「しっかし、あんな身体の調子悪くても不幸の事気にしてるんだから、よっぽどだね」
「…………」
「厄介そうだけど、まぁ頑張って」
 セリカはテーブルにコップを戻してから、そのままドアの方に歩いていく。
「どしたの?」
「……」
「やっぱり、あれだけじゃ足りなかったんじゃない…いいよ、ボクはここで待ってるから。この子がどっかに行こうとしたら、セリカに知らせるよ」
 こくん。
 最後に眠っている少女の事をもう一度見てから、セリカは部屋を出ていった。


「やっと帰ってきたっ…!」
「?」
 セリカが食堂で甘く煮た果物をいくつか摘んでから部屋に帰ってくると、ドアの前でミュークからメッセージが飛んでくる。
 きぃ…
「あっ」
 ドアを開けると、さっきの少女の声が返ってくる。少女はベッドの上に座って、しきりにミュークの事を撫でていた。
「何とかしてよ〜、起きてからずっとこれなんだから」
「可愛いネコちゃんですね…あなたのネコですか?」
 こくん。
 セリカはうなずいた。
「ちょっと〜」
 ミュークが抗議してくるが、セリカは気にしない。少女が本当に楽しそうにミュークと遊んでいたからだ。
「遊んでいるんじゃないよ、この子が勝手にボクの身体を触ってるんだよ」
「大人しい子ですね」
 ミュークの首筋やら耳やらを嬉しそうにまさぐる。
「我慢してるんだよっ」
「………?」
「ええ…おかげさまで、すっかり良くなっちゃいました。魔術師さんの作る薬って、すごい効き目なんですね」
「元気になりすぎだよ〜」
 ミュークは耐えかねたように少女の手から抜け出て、セリカの足元に逃げてくる。
「あ…あはは、やっぱり飼い主さんの方が好きなのかな」
「キミよりはね」
「そう言えば、お名前は…私は、琴音と言います」
「………」
「セリカさんですか?助けてくださって、本当にありがとうございます…こんなにしてくださったのに、私、お礼も出来なくて…ごめんなさい」
「…………?」
「ええ、不幸の話は本当なんです…ですから、ご迷惑がかかる…いえ、ご迷惑で済む話じゃないんです、あなたが不幸になってしまう前に、私、行かせて頂きます」
 琴音はベッドの真ん中から移動して、ベッドの下に揃えられていた革のサンダルを履く。
「………」
「駄目なんです、いろんな方に相談しましたけど、結局駄目だったんです」
 サンダルを履いて、セリカの方にゆっくりと歩み寄ってくる。
「でも、人に親切にして頂いたのは、久しぶりでした」
 琴音は落ち着いた笑みを浮かべて、セリカに向かって深々と一礼した。
「ありがとうございました。セリカさんの事は一生忘れません」
 口調は丁寧だったが、どこか一方的に話しているという感もある。
「ボクにも礼を言って欲しいけどね」
「バイバイ、ネコちゃん。また遊びたかったけど、仕方ないの。優しい飼い主さんで良かったね」
「また遊ぶのは勘弁っ」
「じゃあ、セリカ…さん…?」
 淡々と言いたいことを述べていた琴音の声が、途中から途切れた。
「セ、セリカさん?」
「セリカ?」
 突然、セリカがはぁ、はぁと呼吸を荒くして、胸に手を当てたのだ。表情も苦しそうなものになる。さっき琴音が寝ていた時と同じような表情だ。
「ど、どうしました?何か、身体の調子が…」
「…来たねっ!」
 ミュークが言って、素早く窓の方に走っていく。
「えっ!?ネ、ネコちゃんまで…どうしたの!?」
 窓の外に飛び出していったミュークを振り返ってから、琴音はまたセリカの方を見る。しかし、その顔は戸惑いでいっぱいになっていた。セリカの変調はともかく、ミュークまでが不可解な行動を取るとなれば不安にもなるだろう。琴音はきょろきょろと辺りを見回していた。しかしもちろん、琴音は原因を見出す事はできない。
「……」
「え?なんですか、セリカさん」
「………!…………!」
「あ…きゃあっ!」
 琴音の身体が高々と宙に持ち上げられた。ごめんなさい、という最後のセリカの叫びも聞き取れただろう。それはますます琴音を混乱させるに過ぎなかったのだが。
「な…なんでっ…どうしたんですか、セリカさん!?」
 セリカは自らもベッドの方に歩みながら、琴音の身体をベッドに移動させていく。それは奇しくもこの部屋に琴音を連れてきた時と同じ術だった。
 スタッフを床に投げ放ち、マントを外してセリカはベッドに上がる。同時に、琴音の身体はベッドの上に着地した。しかし、術を解いたわけではない。ベッドに少し押しつけるような力を加えたまま、浮遊魔法は維持されていた。それは、簡単な拘束として働く。
「い…いやああぁっ!」
 形相を変えたセリカの顔に、琴音は怯えた声を上げる。セリカの中の衝動は、昨日よりもさらに大きく、攻撃的になっていた。抱かれるなどという生やさしい行為では収まりそうにもない。激しく犯したい。
 セリカは琴音のローブをまとめる腰の紐に手をかけて、あっという間にほどいてしまった。後は、生地をめくっていくだけで琴音の身体が露わになってしまう。浮遊魔法を少し操作すれば、身体の後ろに回された布を脱がすのも容易だった。
「な、なんで、なんで」
 一糸纏わぬ姿になった琴音は、震えながらセリカの事を見る。恥ずかしさよりも、恐怖の方が先に立っているようだった。信頼しきっていた人間が豹変したのだから、それも当然だろう。
 琴音の身体は小柄ながらも、膨らむべき所はそれなりに膨らんだボディラインをしていた。ウェストの引き締まりが、胸と腰の部分を強調しているのかもしれない。
 はぁ、はぁと呼吸の音を立てながら、セリカはいきなり琴音の秘裂に指を這わせた。
 びくっ、と琴音は震えて、
「い…いやあぁぁぁぁぁっ!」
 叫ぶ。
「…!?」
 びばちっ!
「あっ…ああっ、あっ!」
 琴音が引きつった声を上げた。
 びばちっ…びばちっ、ばちばちっ!
「だめぇっ!」
「…ぅっ!」
 セリカの身体に、突如生まれた激しい電撃が絡みつく。
 青紫の色をしたその電撃は、明らかに自然に生まれたものではなかった。普通の電気が、延々と人に絡みつく事などあり得ない。しかも、間近にいる琴音自身やベッドのシーツは何も影響を受けていないのだ。
「く…ぁっ、ぁっ、ぁぁっ」
 セリカが苦悶の声を上げる。
「セ…セリカさんっ!や、やめてっ、やめてぇっ!」
 裸のままの琴音が、狂ったように叫びながらセリカに抱きつく。それでも、琴音の身体に影響は無かった。ただし電撃も収まらない。
「やめてっ……おねがい…!」
「……、…、………、………、………」
「………えっ?セ、セリカさん?」
 琴音は、問いかけの声を漏らす。電撃の中でセリカが呪文を詠唱している事に気づいたのだ。その表情は苦悶に歪んでいるものの、決して断末魔のそれではない。
「………!」
 ぴしゅっ!
「…えっ」
 空気音のような物を残して、電撃はやすやすと四散した。後にはなんの痕跡も残っていない。
「…はぁ…はぁ」
 セリカは大きく息をついている。
 身体に関わるようなダメージではないが、それなりの消耗があった。ひねりのない魔法だったから解呪魔法(ディスペル・マジック)を通すのも簡単だったが、熟練の術者からまともに受けたのだとしたらかなり危険なダメージになっていた可能性もある。そんな術者に不意打ちを受ける事など、あり得ないが。
「セ、セリカさん、大丈夫ですか!?」
 こくん。
 セリカはうなずいた。嘘ではない。
「あ、あれを消しちゃうなんて…しかも、それで平気なんて」
 琴音は呆然としていた。信じられないといった顔である。
「……」
 大丈夫、とセリカは繰り返した。そして、セリカは多少ふらつきながらも、琴音の方にまた近づいていく。どこか苦しそうな、あるいは物欲しそうな表情。
「え…あ」
 自分の全裸の姿を見て、琴音は頬を染める。何か毒気を抜かれたようだった。妙に落ち着いて状況を見てしまうようになる。
「…ひょっとして、セリカさん、そういうのが好きなんですか…?」
 …こくん。
 説明をしている余裕は無かった。電撃を受けている間はさすがに考えていられなかったが、もう我慢など出来ないほどにセリカの衝動は高まってきている。
「えっと…わかりました…私の身体、好きにしてもらって構いません」
「……」
「私の不幸が解決出来るかも知れない事を教えてもらった、お礼です…」
 恥ずかしそうに目を伏せながらも、琴音は横たわり、身体を開いた。
「…」
 セリカは状況が二転三転する状況で混乱していたが、それは行為を中断させて事情を整理し始めるまでには至らない。目の前には、自分が好きにする事のできる少女の身体が横たわっているのだ。
 そうしてから後でどうなるかよりも、今は性行為への衝動で頭がいっぱいだった。
「で、でも、やさしくしてくださいね。私、こんな事するのはじめてなんです」
 …こくん。
 セリカはうなずいた。そしてさっきしたように、セリカは指を琴音の秘裂に這わせる。そのまま指に力を入れて、秘裂の中の粘膜に到達させた。
「あっ…ちょ、ちょっと強すぎます…もう少し、弱くしてくれませんか?」
「…」
 琴音の願いを無視するわけにもいかなかったが、慎重に丁寧に琴音の身体を高ぶらせていく余裕などとてもない。自分は、今すぐにでも…
 そこまで考えて、セリカは自分がどうしたいのかうまくつかめない事に気づく。別に琴音の身体をいじくって琴音が悶えるのを見たいのではないし、琴音に自分の身体を触らせて快感を感じたいわけではない。もっと、別の種類の行為をセリカの衝動は欲望しているのだ。
 セリカはもどかしさに襲われながらも、琴音の秘裂をおざなりに愛撫し始める。琴音が言うとおりに、粘膜をいきなり刺激する事はしない。秘裂の上や横の辺りをくすぐっているだけだ。
「はぁっ…なんだか、身体が熱くなっちゃうみたいです」
 それでも、琴音はそんな事を言う。セリカは困惑しつつも、その行為を繰り返した。
「んんぅ…ふんっ…あん」
 次第に琴音は身体を揺らしはじめ、セリカが指を動かす度に鼻にかかった小さな喘ぎ声を立て始める。その姿にセリカは身体が熱くなるのを感じてしまったが、それはセリカの衝動を充足させるものではなかった。もどかしさはどんどん膨らんで、ついには行為を始める前とほとんど変わらない状態になってきてしまう。
「い、いいです…もっと、触ってください…あっ、そこ、いいですっ」
 なおも喘ぎ続ける琴音を見つめつつ、セリカは頭が麻痺してくるような感覚を感じていた。その感覚は段々しこりのように凝り固まってきて、額の辺りでじんじんと熱を発し始める。まるで、その熱がサークレットで圧迫されているような感じだった。
 その感覚はどんどん膨らむ。そして、細長くセリカの頭の中を伸びていき、やがて後頭部まで達して…
 一直線に突き抜けた。
「あ…セリカさん、もういいんですか?」
 指を止めたセリカに、琴音が問う。
 じゅびゅるっ!
「…ひっ!?」
 細い隙間から粘液質のものを無理矢理吹き出させたような音。琴音は声を上げて、ずずっと後ろに退く。
「な、なんですか…それっ」
 どうやら、セリカが出した物だという事には気づいたようだった。しかしセリカが無意識に出した物だという事まで気づいたかどうかはわからない。重力を無視して宙に蠢く、ピンクの色をした細い触手。
「き、気持ち悪いですっ…あっ…!」
 それは、蛇のように宙を動いて琴音の秘裂にもぐり込んでしまった。逃げる余裕も与えない。
「い、いたっ……あれ…?」
 感じると思っていた痛みがない。琴音は不思議そうな声を上げる。
「え、え…あの、これ、気持ち悪い…です…」
 痛くはないが、代わりにひどくぬめついた感覚があった。琴音は、触手にぬるぬるとした液体が付着している事に気づき、やや顔をしかめる。それでも一方的に引き抜いてしまうわけにもいかないのか、セリカに対して婉曲(えんきょく)に訴えようと試みていた。
「ぬるぬる…してますし…シーツ、よごれちゃいます…」
 なおも言葉を続ける。しかし、セリカはほとんどその言葉が聞こえていなかった。生まれて初めて感じるような開放感に包まれていたのだ。頭はすっきりとした爽やかさが隅から隅まで行き渡っており、身体全体もなんだか軽くなったように思える。
 セリカはぽうっと宙の一点を見つめながら、その感覚に酔いしれていた。
「セ、セリカさんっ…」
 自分の名前が呼ばれて、ようやく意識が少しまともに戻ったようだ。セリカの目の焦点が琴音の顔に合う。
「お願いです…なんだか、ここが火照ってきちゃったみたいなんです、身体をまたおかしくしちゃうかもしれません」
 触手は熱心に琴音の秘裂の中をはい回っていた。粘液も、どんどん触手の先から産み出していく。ぐちゅぐちゅ、くちゅくちゅという粘液の音がひっきりなしに聞こえてきていた。琴音の幼い秘裂の中は、もはや触手の分泌した液でいっぱいになっている。
 そう、琴音のボディラインは成熟し始めているようだが、秘部の方はほとんど少女のままであるようだった。一文字の筋でしかなかった外観も、こぢんまりと収まっている中身も。性行為について琴音が無垢なのは本当なのだろう。
 それを触手は思うがままにまさぐっているのだから、琴音はひどい違和感や嫌悪感を覚えているのに違いない。
「な、なんだか、本当におかしくなってくるみたいです、やめさせてください」
 本当におかしくなってくる……娼婦すら手駒に取った、触手の産み出す液体に秘部の粘膜を冒されて…琴音が、本当におかしくなってくる…
 セリカの腰の奥から、何かがムラムラと沸き起こってきた。開放感の中で忘れていたさっきの衝動に、再び火がついてくる。それは瞬く間に燃え盛り始めた。
「あっ…へ、変です、絶対にもう何かおかしくなっちゃってます…また倒れたらセリカさんにも迷惑かけちゃいますし、はぅっ…こ、こ、これ、抜いてください」
 琴音が一瞬、かっと目を見開く。襞の中にうずもれてしまいそうな小粒のクリトリスを、触手は目ざとく見つけだしたのだ。そこをモロに擦られれば、いかに未開発の少女といえど何かを感じずにはいられない。
「い、いやあーっ、いやあーっ」
 ついに琴音が涙ながらに叫び始める。触手は、クリトリスの所を高速で左右に行ったり来たりし始めたのだ。それによって、次第に小粒の部分がわずかながらも勃起を見せ始める。ますます琴音は刺激を感じずにはいられなくなる。
 セリカはそれを見ながら、自分のキュロットを下ろしていった。衝動をどう沈めるべきなのか、いつの間にか答えは頭の中にインプットされていたのだ。
 触手の、琴音に侵入しているのとは逆の方がうねりながら伸びて、セリカの秘部に近づいてくる。セリカはそれを無言で受け入れた。秘裂を割り開いたその触手は、セリカのクリトリスにぴったりとくっつく。
「……はぁ!」
 セリカは一瞬、びくっと身体を震わせた。自分の身体感覚が拡張される、初めての経験を迎えたのだ。自分の神経がそれまで何も無かった所に伸びていく、不安に満ちた経験。しかし、それはどこか自信を満ちあふれさせる経験でもあった。
「そ、そんな…」
 いつの間にか琴音の秘裂から触手の先は抜け出していた。セリカの秘裂から伸びるその触手は、柔軟性を失ってまっすぐに屹立している。ピンク色の色はそのままで、全体が粘液に濡れてぬらぬらと光っていた。もはや、触手には見えない。立派な肉棒である。
 琴音は秘裂をさらけだした姿勢のまま、凍り付いたようにその肉棒を見つめていた。顔には再び恐怖が見える。
 セリカは、その琴音にゆっくり覆いかぶさっていった。
「そ、それ…私、そんな…」
 なおも何事か言おうとする琴音の秘裂に、セリカは狙いをつける。躊躇するつもりはなかった。
「あ、あ、あ」
 肉棒が秘裂に近づき、そこに侵入し、ヴァギナの入り口までたどりつく。そのぬめった感触を、肉棒ははっきりと感じてセリカに伝えた。それによって、この肉棒がまさに身体の一部である事をセリカは確信する。
 ずぷ…!
「あーっ!」
 琴音が目を見開いて叫んだ。
 ずぶ…ずぬっ!
「ひくっ…あっ、あっ…いたいっ…」
 ずぶ…ずん。
「い、いたい、いたいっ…」
 あっという間にセリカは処女膜を破り、琴音の身体の奥深くまで侵入した。琴音の中は狭かったが、肉棒の太さがそれほどでもない事と、粘液のサポートによってスムーズに挿入する事ができたのだ。
「ぬ、ぬいて…いたい…」
 琴音は潤んだ瞳で訴える。腰を必死に引こうとしているその姿は、本当に痛そうだ。
 だが、またセリカの頭の中に正解はインプットされていたのだ。
「……」
 セリカは肉棒に力を入れる。すると、琴音のヴァギナの中で粘液がどろどろと生まれるのがわかった。
「あ…いた…」
 琴音が再び声を出す。傷口に少し染みたのだろう。
「いた…気持ち…悪いです…」
 しかし、そのままの姿勢で粘液を出しながらじっとしていると、琴音は段々言葉少なになり、やがて困った顔になってくる。その意味はひとつしかない。
 ぐぢゅるっ…
 見計らって、セリカは粘液にあふれかえった琴音の中で肉棒を移動させた。ヴァギナがねっとりとこすられる。
「う…うわぁ…ああ…」
 絞り出すような琴音の声。それは、もはや苦痛を訴えるものではなくなっていた。目を固く閉じて、耐えるようにしている顔は痛みを訴えているようにも見えるが、声に明らかな甘さが生まれているのだ。
 一度根元まで抜いてしまってから、セリカは体勢を整えて、一気に突き出した。
 ぐぢゅっ、ぐちゅぷっ、じゅぶぶっ!
「ひ、ひぃっ!」
 セリカが激しく突くと、琴音は喉を反らせて、わなわなと身体を震わせる。身体の両側にある手でシーツをつかみ、腰を上げている様子は明らかに性を感じている者の姿だ。琴音自身がそれをどう認知しているのかは不明だが、性感が生まれているのは確かなのだ。
 そのまま、同じペースでセリカはストロークを続けた。初めて経験する動きだったが、闇雲に突いているだけでも琴音は嬌声を上げて悶えに悶える。
 自分の身体の一部が温かくぬめったものに包まれている感覚、何かを突く感覚、そのどちらもが恐ろしく快感だった。腰を動かすスピードはどんどん上がっていき、これ以上は早くできないという所まで達する。
「ゆ…ゆるして…くださ…しんじゃ…しんじゃう…」
 声も絶え絶えに琴音が言う。だがセリカは行為を止めなかった。セリカの身体の奥底からも、沸き上がってくるものがあったのだ。
「し…しんじゃ…あ…」
「……!!」
 びゅぐっ!
 セリカが琴音の奥底を突いた瞬間、ペニスを何かが通っていく感覚があった。先端から放出されて、琴音の身体の一番深くを叩く。
 びゅ…びゅ、びゅっ
 一度では収まらなかった。肉棒が脈動する度に、熱い物がほとばしるのがわかる。セリカはそれが出るのに任せた。激しく放出するという行為も快感になりうるのだという事を、セリカは身をもって体験したのだ。触手が生まれた時よりもさらに大きな開放感と満足感。それを他人の中に出すという征服感すらも、セリカは感じていたかも知れない。
 一方、琴音は身体をぴくぴくと震わせながら、完全に悶絶していた。目からあふれた涙と口元のよだれが、性行為の激しさを物語っている。しかし、セリカは申し訳なさを感じる前にいとおしさを感じてしまっていた。
 何かが、変わったのかも知れない。そう思いつつも、セリカは肉棒をヴァギナの中に入れたまま絶頂の余韻に浸り続けていた…。

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