佐祐理[部屋]


 広い部屋…少なく見積もっても、12畳はあるだろう。綺麗な木目のフローリングを、大きな窓から差し込んでくる光がつやつやと照らしている。それだけではやや安っぽいのかもしれないが、落ち着いた色合いを見せた種々の家具が全体をよくまとめていた。
 その真ん中にちょこんと置かれた、やや高さが低めの丸テーブル。くすんだブラウンの上に青磁のような色をした洋風のティーカップが置かれている状態は、誰が見ても洒落た午後のティータイムのひとときを演出しているように見えるだろう。
 そこから立ち上がっている澄んだ香草の香りも、雰囲気を作るのに一役買っていたかもしれない。だが、カップの中に入っている液体は赤みがかったライトブラウン、つまり紅茶の色をしている。ハーブブレンド・ティー、すなわち茶葉とハーブのブレンドによる茶である。
「舞、もう一杯いる?」
「…いい」
 その丸テーブルを囲んでいるのは二人の少女だった。そして一人がこの部屋の住人であり、佐祐理である。向かって座った舞は、やや渋い顔をして空になったカップをテーブルに置いた。
「あははーっ…舞、やっぱり普通の紅茶の方が好き?」
「普通のお茶の方がいい」
「佐祐理はこの香りが好きだから…でも、今度は普通のお茶にしておくね」
「佐祐理が好きなら、飲むものが別々でもいい」
「でも、やっぱり同じものを飲んだ方が楽しいよ」
「じゃあ、普通の紅茶」
「うん、そうするね」
 舞は頷(うなず)きながら、フォークで皿の上に乗せられていたケーキの最後のひとかけを刺した。クリームが多めに使われている、シンプルなイチゴのショートケーキだ。
「甘い物も、和菓子の方が好き?」
「…でも、このケーキはおいしい」
「良かった。ここのお店のケーキ、佐祐理一番好きなんだよ」
「あんまり甘くないから」
「舞はやっぱり日本人の味覚しているよね」
「そうかもしれない」
 そう言って、ぱくっと最後のひとかけを食べてしまった。
「ごちそうさま」
「はい、おそまつさま」
 そう言う佐祐理の方のケーキはまだ半分以上残されていた。
「佐祐理はもう食べないの」
「うん、もういいよ」
「何か調子が悪い?」
「ううん、でも、ちょっと今日は昼御飯が遅かったから」
 佐祐理はハーブブレンドティーを飲み、少しだけ視線を下に向ける。
「そう」
「うん。じゃあ、何して遊ぶ?」
 小学生のような問いかけ。


 そして、二人はいつもしているように色々な事をして遊んだ。そのほとんどは他愛もないようなものである。定番のしりとりから、綾取りやら折り紙やら、幼稚園のお遊戯のようなメニューが並ぶ。途中で『ウォーリーを探せ』が入ってきた辺りが幼稚園のようでもあり、微妙にミスマッチングでもあった。
 恐らく、そんな遊びでも成立してしまうのは遊びながら交わされる会話にも重点が置かれているからだろう。その会話自体は学校の事であったり家族の事であったりと大した話題でもないのだが、ある意味では年相応とも言える。もっともそのおかげでしりとりは互いがフレーズを提示するまで妙にブランクが空いたし、混乱することもしばしばだった。
「まだ夜に校舎に行っているの?」
「うん…亀…」
「中にいるとき、気を付けないと駄目だよ?あ、舞、亀はさっき言ったよ」
「…大丈夫…」
「だめだよ」
「…違う…夜に行っても気をつけてるから大丈夫…亀じゃなくて…カメレオン」
「あ、そう言う意味だったの」
「…佐祐理の番…」
「うん…カメレオンね……舞、負けてるよ」
「…あ…」
「あははーっ…佐祐理の勝ち」
「…うん…ふぁ」
 舞があくびする。
「どうしたの?眠い?」
「うん…ちょっと…なんだか、すごく眠い」
 舞はまたあくびをした。
「横になる?」
「でも…ふぁ」
 三度目のあくび。
「佐祐理は構わないよ」
 自分のベッドを指さす。ぎりぎりシングルサイズと言った感じのベッドは、ほのかなピンクの色で統一された寝具がきちんとメイクしてあった。
「ごめん…」
「ううん」
 舞はふらふらと立ち上がり、ベッドに向かって歩いていく。明らかに足取りがおぼついていなかった。舞は頭を押さえながら、なんとかベッドまでたどりついてぱたんと倒れ込む。
「…なんか…頭がおかしい」
「舞、寝るならセーターとかは脱いでおいた方がいいよ」
「うん…」
 舞は、極めて緩慢な動きで何とかセーターに手をかけ、それを脱いでいった。
「スカートも、皺になっちゃうと思うけど…佐祐理のパジャマ、貸そうか?」
「…うん」
 今にも寝てしまいそうな様子で舞は言う。
 佐祐理が自分の洋服ダンスから持ってきた淡いグリーンのパジャマに着替える頃には、舞の呼吸はほとんど寝息になっていた。
「おや…す…み」
「うーん…佐祐理も少し眠くなっちゃったから、舞と一緒に寝ようかな」
 かくんっ…と、舞が顎を垂れたのはうなずいたからだったのか、眠さに耐えかねたからだったのか。
 目を閉じてしまった舞の横に、佐祐理はいそいそともぐり込んだ。トレーナーに柔らかい生地のズボンという格好だったから、そのまま寝てしまう事に抵抗はない。スペースも、二人で寝て十分すぎるほどだった。
「おやすみ…」
 舞の方を向いたまま、佐祐理は布団の中に手を入れて目を閉じた。


「ん…」
「あ、舞」
 かすかに舞が目を開けた瞬間、佐祐理が声をかける。
「どう?気分」
「いま…何時…」
「もう外真っ暗だね。7時くらいになっちゃっているかもしれないよ」
「おかしい…突然眠くなるなんて…」
 舞が自らの頭に手を当てる。
「どう?気分」
「まだ…なんだか、眠いみたいに頭が重い…」
「まずお家の方に連絡した方がいいかな?」
「今日は、おばさんが帰ってこない日だから…だいじょうぶ…」
「あれ、そうだったの?舞」
「うん…」
「だったら、最初から言ってくれればいいのに…夜ご飯とか、なんだったら泊まっていっても佐祐理はいいよ」
「でも」
 舞がなんとか身を起こそうとする。
「ん…」
 だが、不快そうな顔をして頭に手を当てたまま、舞は途中で動きを止めてしまった。
「無理しなくていいよ。風邪引いちゃったのかもしれないし」
「風邪なら…佐祐理にうつる…」
「佐祐理はこの間のお休みの時に風邪引いたから、もうしばらくは風邪引かないよ。それに、このまま帰るの大変でしょ?」
 やや怪しい免疫理論だったが、舞を誤魔化すには十分なようだ。
「ごめん…佐祐理…」
「いいよ、舞」
 舞は再び枕に倒れ込む。ばふっ、という音が立って、舞はしたたかに頭を枕に打ち付けた。もちろん衝撃など大したものではないだろうが、明らかに身体が本人の意思通りに動いていない事はわかる。
「大丈夫かな…夜ご飯、普通に食べられる?」
「わからない…お腹は普通…」
「だったら、もう少ししてから決めようね」
「本当にごめん…佐祐理」
「いいから、寝た方がいいよ。お薬あげるね」
 そう言って、佐祐理は布団から抜け出す。
 舞は焦点の定まらない瞳で、ぼんやりと部屋の中を見ていた。何度も来ている部屋だったが、泊まった事など一度もない。夜中には、舞は魔物を狩る者としてあの校舎に赴かなければいけなかったからだ。
 だが、今晩は初めて行けない日になるかもしれない…舞は、生まれてこの方ほとんど病気などした事がない人間だったのに。
「舞、ひとりで飲める?飲ましてあげようか?」
 そこに、佐祐理が戻ってきてベッドに上がってくる。右手には昼に飲んでいたハーブブレンドティーの残り、左手には錠剤が2,3個あった。
「口…開けるから、そこに入れて」
「うん」
 舞は真上を見上げながら大きく口を開いた。
 佐祐理は左手にある錠剤を、その中にぽとぽとと落とす。そして、そっと右手にあるカップの中身を口の中に注ぎ込んでいった。
 こくん、と舞が飲み込んだ後に、
「…ごほっ!ごほっ…」
「ごっごめんっ!舞、大丈夫!?」
「こほ…大丈夫…」
 舞はせき込みながらも、何とか薬を飲み込んだようだった。
「ごめんね…他の人に何か飲ませてあげるのって、加減がわからないから」
「いい…ありがとう」
 そう舞が答えたのを聞いて、佐祐理はベッドから下りてカップをテーブルの上に戻しに行く。
「ご飯のお願い、してくるね。おかゆみたいなのを、この部屋に持ってきて温かいままに出来るようにしておくから」
「そこまで…」
「いいの。病人は素直に寝ていないと駄目だよ」
「佐祐理、本当にありがとう」
「ううん、舞だもの。当然だよ。きちんと寝ていてね」
 そして、佐祐理は部屋から出ていく。
 舞は寝返りすら打たず、そのままぼうっとした目で部屋の中の一点を見つめていた。眠れそうな、眠れなさそうな微妙な感覚である。うとうとしながら舞は佐祐理の帰りを待っていた。


 佐祐理は部屋に戻ってくる頃には、時間がだいぶ経っていた。その手にはカセットコンロと、その上に乗せられた小さな土鍋がある。
「お待たせ、舞。食べられる?」
「ちょっとわからない…もう少し経ってから」
 そう言って見て、舞は喉が乾いている事に気づく。
「でも、お水は欲しいかもしれない」
「あ、お水ね。ちょっと待っててね」
 佐祐理はカセットコンロをテーブルに置くと、また部屋を出ていこうとする。
「ごめん…」
 舞はつぶやくように謝った。
「そんなに落ち込まなくてもいいよ。舞は何にも悪いことしていないんだから」
「でも、身体の調子を悪くしたのは私の責任だから」
「病気をしちゃう時は誰でも同じだよ」
 そして、佐祐理は再び部屋を出ていった。
 帰ってきた佐祐理の手には、盆の上に載せられた陶器のピッチャーと装飾の入った小さなガラスのコップがあった。
「はい、お水だよ」
 佐祐理は盆をテーブルの上に置いて、ピッチャーから水をコップに注ぎ入れる。そして、ベッドの脇に近づいてきた。
「さっきみたいにむせちゃうと駄目だから、少し身体起こせる?」
「うん…」
 舞はゆっくりと自らの身体を起こしていく。さっきよりも身体は動かしやすくなってきたようだったが、熱っぽさがはっきり感じられるようになってきていた。舞にとっては非日常的な感覚である。
 ややふらつくものを感じながらも、何とか舞は佐祐理からコップを受け取った。口元に当てると、ややおぼつかない手つきでそれを少しずつ傾けていく。注がれていた液体を飲み干してしまうと、舞は佐祐理にそれを突き出すようにして返した。
「ありがとう」
「どう?」
「少し、さっきより良くなったかもしれないけど、熱がある」
「あ、やっぱり?」
 佐祐理はベッドの上に上がり、舞の額に手を伸ばして自らの額に当てた手の感覚と比較する。舞はそれだけで後ろに倒されそうな感覚を感じたが、何とか踏みとどまった。
「熱、あるね。風邪だよ」
「うん」
「風邪だったら、やっぱり寝ておくのが一番だと思うから」
「私もそうだと思う」
「栄養をつけた方がいいと思うけど、ご飯食べられる?飲む方がいいなら、売っているやつだけど、栄養ドリンクみたいなのも持ってきたよ」
「ご飯を食べるのは大変そう」
 そう言いながら、舞はさっき佐祐理が運んできた盆の上を思い起こしていた。盆の上に栄養ドリンクなど載っていただろうか?頭がぼうっとしていたから、見逃していたのかもしれないが。
「じゃあ、舞があんまり好きじゃない味かもしれないけど、栄養はつくから飲んでみるといいよ」
 佐祐理はまたベッドから下りて、舞の視界から消えると液体が入った茶色の瓶を持って帰ってきた。あれやこれやと尽くしてもらう、まるきり病人の扱いである。佐祐理は普段からこの上なく親切だが、病人に対する看病のような時にこそ彼女の親切さが際だつと言えるだろう。舞がやった事も、やってもらった事もないことだった。
「…どうかした?舞」
「え、なんで」
「泣いてない?」
「そんなことない」
「…うん、そうだよね。佐祐理の見間違い」
 そう言って佐祐理は封の開けられた小瓶を差し出してくる。
「気をつけて持ってね」
 舞の手に渡る直前まで瓶を支えて、舞がしっかり握ったのを確認して佐祐理が手を離していく。
 生まれて初めて飲む液体に少しだけ躊躇しつつも、舞は小瓶を唇に当てて一気に中身を飲み干していった。
「…けほっ」
「あ、ほら、気をつけないと」
「違う、思っていたよりもすごく甘かった」
「そうだよ、栄養つけるんだからお砂糖みたいなものも入っているんだよ」
「知らなかった」
 舞は小瓶を佐祐理に返す。
「あははーっ、でも、それを飲めば少し元気になってくると思うよ」
「なんだか、もう身体が温かくなってきた気がする」
「少し早すぎるかもね」
「でも、身体がかーっとしてくる感じがする」
「舞、ひょっとしたら薬を飲むと何でも治っちゃうタイプ?」
「そんなことない」
「うそうそ、じゃあもう一度寝てみるといいよ」
「うん…」
 舞は多少眠気が薄れてきていたが、佐祐理の言葉に従って身体をベッドに倒した。佐祐理は空き瓶を置きに行く。
 帰ってきた佐祐理は、また舞のベッドにもぐり込んできた。
「佐祐理」
「大丈夫だよ、さっき言ったみたいに私も風邪を前引いてるから」
「でも」
「だって、佐祐理だけ起きていてもつまらないから」
「………」
「お話している間に、眠くなってくると思うよ。佐祐理も、今日はなんだか早く眠くなって来ちゃったし」
「…わかった」
 そして、二人は肩を並べて小さな声でおしゃべりを始めた。
 さっきまで、舞はおしゃべりをする気力など全くないほど眠気を感じていたのだが、時間が経つほどにそれは薄れていった。
 だったのだが…どうも頭の中に霞がかかっているような、妙な感覚を舞は感じていた。あまり眠くはないし、佐祐理との受け答えも普通に出来ているはずなのだが、どこかふわふわしたような気持ちになってきている。
 それは酩酊状態に近いものなのだろうが、舞にわかるはずもなかった。
「佐祐理…」
「なに?舞」
「熱が…上がってきたかもしれない」
「ほんとう?お水、欲しい?」
「うん…ごめん」
 佐祐理は布団から出ていって、テーブルのピッチャーから水をコップに注いで戻ってくる。その間、舞はごそごそと布団の中から手を出して自らの頬に当ててみた。
 熱い気がする。自分の手で触っているのに熱いのだから、顔の部分などに熱が集中してきているということなのだろう。事実、手を持ち上げる時もなんとなくだるい気がしていたから、ひょっとすると手の方の血の巡りは悪くなっているのかもしれない。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
 舞の乏しい知識でも、奇妙な症状であるという事は理解できた。舞は慎重にコップを受け取り、ゆっくりと飲んでいく。喉を冷たい液体が通っていく感覚は快かったが、熱の方はあまり収まる兆しを見せていなかった。
「本当に済まない、佐祐理」
「いいよ、舞」
 舞がコップを差し出しながら俯くのを見て、佐祐理は微笑む。
「だって、佐祐理は舞の事が好きだから」
「うん」
 いわゆる他意のない「好き」だ。だから、舞は素直にうなずいた。
「………」
「………」
 沈黙。
「…佐祐理?」
 舞の問いかけに、佐祐理がほんの少しだけ表情を動かした。元々の表情がどういう表情だったのか忘れてしまうほどに微妙な変化だ。コップを胸に持ったまま、佐祐理は舞の事を見つめていた。
「佐祐理、どうかした?」
「舞」
「なに?」
「キスしていい?」
「…え」
「舞…キスして、いい?」
 佐祐理は言ってコップを床に置いた。一瞬佐祐理の姿が舞の視界から消えて、すぐにまた現れる。
 舞の頭は完全に停止していた。
 佐祐理がベッドに上がってくるとき、スプリングの立てる音やシーツの擦れる音がいやに大きく聞こえてくる。
「佐祐理、舞の事が好きだから」
 それにかぶさる佐祐理の声も、非常に透明に聞こえてきた。音は聞こえてくるのだが、言っている事が理解できない。
「こういうの、舞が好きかどうかは知らないけど、佐祐理は舞の事好きだから…」
 佐祐理の身体が近づいてくる。
「わがままだよね…佐祐理」
 そんな言い訳すらも、
「いやだったら、はっきり言ってね、舞」
 問いかけすらも、反応できない。
 佐祐理が舞の身体を支えている右手に手を掛けた瞬間、舞の身体は布団の上に崩れ落ちた。枕の上に落ちた舞の顔の真上に、佐祐理の顔が移動していく。
 舞の視界いっぱいに、佐祐理の顔があった。舞が認識できたのは、大きなふたつの瞳とピンク色の唇である。引き込まれるような感覚を感じつつ、舞は身体を硬直させた。文字通り動けないのだ。舞が感じていたものは恐怖感にも似ていたが、必ずしもそれと一致しない。どこか安息に似た心地だった。魅了、という言葉が相応しかったかもしれない。
「舞…かわいい」
 佐祐理が、はっきりと常軌を逸した言葉を口にする。
 しかし舞は、自らの心臓の拍動を感じる事しか出来なかった。何から来る拍動かはわからない。熱から来るものか、緊張から来るものか、はたまた…
 むにゅ…
 唇が重なった。
 舞の唇は震えていた。佐祐理はしばらくそのまま唇を押しつけたままでいたが、やがて舌を滑り出して舞の唇をやさしく舐め上げる。
「ぁ…」
 かすかに舞の唇が開いた瞬間、佐祐理は舌を舞の唇の間から侵入させた。
「………」
 キスと聞いて唇の接触としか思い浮かべなかった舞に、初めて混乱の色が生まれる。目を大きく見開き、呼吸を荒げたが、抵抗する事はできなかった。むしろ、その動揺を突かれて佐祐理に口腔を激しく刺激される。佐祐理の舌は生きているようにうごめき、舞の舌から歯ぐきまでに絡みついていった。ちゅるっと流し込まれた唾液。
「ん…」
 佐祐理は唇を離した。反射的に、舞はこくんと唾液を飲み込む。
「あ…舞」
 舞の上におおいかぶさる姿勢のまま、惚けたような笑みを佐祐理が浮かべた。唾液を受け入れてもらった事が悦びなのだろうか…
「ごめんね、こんな事して」
 ようやく意識がすこし元に戻ってきた。舞は首を横にかすかに振る。
「佐祐理が、したいなら」
「舞…」
 佐祐理が舞の耳元に唇を近づける。
「もし、いやだったら、しないけれど、佐祐理、舞をもっと感じたい」
「………!」
 舞にも、その言葉が何を意味しているのかは理解できた。
 佐祐理はそれ以上何も言わず、舞の耳元のすぐそばに口を位置させたまま黙っていた。
 沈黙が下りた中で、舞の聴覚が佐祐理の小さな呼吸を捉える。それはごくごく小さな吐息の音だったのだが、舞にはまるで佐祐理からのメッセージのように思えてしまった。何のメッセージなのはわからない。しかし、舞の事を急(せ)き立てて止まない…。
「舞、さっきのいやだった?」
「あ…」
 突然生まれた佐祐理の言葉に、舞は意味のない声を出す。
「もし、さっきのがいやじゃなかったら…もっと、楽しい事が出来るよ」
 しりとりやあやとりをしようとしている時のような、気楽な言葉。だが、佐祐理の言葉はどこか熱っぽさと艶っぽさを帯びており、舞を非日常的な感覚へと誘(いざな)っていく。
 もちろん、こんな状況は舞にとって全くの未知だ。佐祐理といる時には空気のように透明な雰囲気を感じていたし、夜の校舎で魔物と対峙している時には冷気に張りつめたような透明さを感じていた。
 こんな、色を帯びた状況は…舞にとって、全くの未知なのだ。
「ねぇ、舞」
 ついに佐祐理が、ねだるような言葉を吐く。
 佐祐理に何かしてもらう事すらあれ、佐祐理が何か舞に要求してきた事など一度もない。それは舞にとって非常にショッキングな事であった。
 同時に、舞は佐祐理との人間関係において、自分が一方的に佐祐理に依存していたのではないかという危惧に思いを寄せざるを得なくなる。そんな殊勝な思考は、これまで舞に一度も浮かんできた事はなかったのに。
 身体だけは壊した事がないという自尊が崩れた事も一因だったかもしれない。佐祐理がそれに対していつも以上に細やかな気配りで尽くしてくれた事も一因かもしれない。熱で、思考が弱々しくなっていたからかもしれない。
「佐祐理…」
「なに?舞?」
「佐祐理が、したいなら」
「舞…」
 耳元に唇を近づけたまま、佐祐理は嬉しそうなつぶやきを示した。
 そのまま耳たぶに舌を這わせる。
「う…ぁ」
 舞は脳を痺れさせられるような感覚を感じた。一点から来るなま温かい刺激はどこかおぞましさにも似ていたが、執拗にやられている内にくすぐったいような感覚に変わってくる。べとべとに濡れた耳たぶに佐祐理の吐息がかかって冷たく感じるのも、不思議な感覚になってくる。
「ん…」
 艶めかしい吐息を漏らしながら、佐祐理は身体を起こす。
「舞」
「佐祐理…」
「好き」
 佐祐理は陶然とした顔で言うと、舞の着ていたブラウスのボタンに手をかける。
「ぬがすよ?」
「…うん」
 舞は小さな声で同意した。
 ぷつっ、ぷつっとボタンが佐祐理の指にかかってひとつずつ外されていくのを、舞は奇妙な感覚で見ていた。舞がその時一番感じていたのは、佐祐理の指が細くて白いという事である。どこか注意力がずれていた。
 そして全てのボタンを外し終わると、佐祐理は思い出したかのように二人の身体にかかっていた布団を大きくめくりあげた。長身の舞の身体が、爪先まで全部見えるように。
 はだけたブラウスの下に白いTシャツ、そしてグリーンのパジャマのズボン。非常にアンバランスな服装だが、舞のボディラインの良さがはっきりとわかる状態でもあった。
「舞の胸、やっぱり大きいね」
 佐祐理が手を伸ばし、大きく膨らんだ舞の胸の膨らみに手を当てる。慈しむような優しいタッチだった。しかも二枚の生地の上から撫でられているのだから、舞の身体にはほとんど刺激が達する事はない。
 だが、舞はもやもやとした感覚が身体の中から沸き上がってくるのを感じ始めていた。
「はぁ…」
 深い吐息をつきながら、舞が身体をよじらせる。シーツがこすれる音がした。
「これも、ぬがしちゃうね」
 佐祐理は舞のシャツの裾に手をかけると、ゆっくりめくり上げていく。舞は肌が露出されていく感覚を感じたが、思ったほどの抵抗感はなかった。引き締まったウェスト、そして純白のブラジャーに包まれた豊かなバスト。
「舞、ばんざいしてみて」
「…うん」
 言われたとおりにする。佐祐理がさらにTシャツを上に上げていくと、シャツが顔にかかって視界が閉ざされた。そのままどんどん上げていって、やがてすぽんとシャツが抜ける。
「ふぅ」
「舞、なんだか赤ちゃんみたい」
「私もそう思う」
 多少素に戻りつつ、舞は言った。
「舞、赤ちゃん…」
 佐祐理はつぶやきながらTシャツをベッドの隅に置く。
「これ、取っちゃうよ…」
 残されていたブラジャーに佐祐理が手を伸ばしていく。心なしか、指が少し震えているようだった。
 背中に佐祐理が手を入れると、舞は自然と身体を少し持ち上げる。すぐに佐祐理はブラジャーのホックを探り当て、見えないところにあるそれをあっさりと外してしまった。
 真ん中をつまんで持ち上げると、舞の乳房が完全に露わになる。
「きれい…」
 佐祐理はブラジャーを置くと、そっと包み込むようにして舞の乳房に手を当てた。
「すべすべしてて、柔らかい…」
 転がすようにして、表面を撫でる。まるで初めて見たものであるような反応だった。丁寧に丁寧に、感触を恐る恐る確かめるように撫でていく。
「うんっ…」
 舞が声を上げる。
「ねぇ、舞、いまどんな気分?」
「なんだか…胸のところがくすぐったいみたいな…変な感じ…」
「気持ちいいの?」
「そ、そうかも…しれない」
「舞…」
 佐祐理が愛撫を続けると、ほどなく先端が固くしこり始めた。
「すごいよ…もう固くなってきた」
 指先でそこを捉え、つついたりはじいたりする。
「く…あっ」
「舞、ここがいいの?」
「い、いいって…」
「気持ちいいの?」
「わ、わからない」
「恥ずかしがらなくていいよ、女の子はこうされたら気持ちよくなるんだから…」
 佐祐理は両の手を使って、乳房全体と先端の部分を同時に刺激し始めた。右の胸の先端と左の乳房、その次は逆…そうしている間に、舞の乳房の先端は紅の色に染まってピンピンに張りつめてきた。
「はじめてじゃないみたい…舞」
「そんなことない…」
「でも、最初からこんなに敏感なんておかしいよ」
 佐祐理は両手の指で先端をまさぐりながら、臆面もなく言う。行為や言動に対する躊躇というものがほとんど無くなってきているようだった。少し目を細めて薄い笑いを浮かべた様子は、普段の佐祐理とは別人に思えるほど支配的に見えた。容貌が美しいだけに、余計それが際だつ。
「し、知らない…」
「じゃあ、下のお口に聞いてみるね」
「えっ…」
 古めかしい言い回しにも、舞は律儀に反応した。
 佐祐理は、パジャマのズボンに手をかける。普段なら、佐祐理が履いているはずのものだ。
「だ、だめ」
「駄目」
 佐祐理が言い切った。
 なおも舞は何か言いかけたが、佐祐理は構わずズボンとショーツを一緒につかんで一気にずり下ろしてしまった。大きなヒップに引っかかりかけたのも構わず、強引に引き下ろす。
 ヘアーに覆われた、舞の秘裂が佐祐理の前に姿を現していた。
「ああ…」
 佐祐理はそんな声を漏らしながら、すぐに指を秘部に這わせていく。
「は、恥ずかしい」
「そんなことないよ」
 返答が狂っている事にすら気づかず、佐祐理は秘裂の間に指を差し入れた。そして少し指を進めると、
「舞、濡れてるっ」
「え」
「舞のココ、わ、すごいっ、ぐちょぐちょになってるよ」
「え…えっ」
「ほらっ」
 佐祐理は指を引き抜いて、舞に示した。その先は、液体に濡れててらてらと光っている。
「そ、そんな」
 舞は何が起こっているのか理解できない。
「女の子って、気持ちよくなるとこうなるんだよ」
「ほんとうに…?」
「佐祐理も、気持ちよくなったらこうなるよ」
「…そう」
「でもね、舞、普通、相当気持ちよくなってもこんなぐちょぐちょにはならないんだよ」
 佐祐理は秘裂の中に指を戻す。熱く洪水のようになったその部分を、ぬちゅぬちゅとかき回す。
「舞が、えっちな証拠だよ」
「い…いやだ」
「だけど、佐祐理はえっちな舞が大好きだから」
「………」
 佐祐理は舞の秘裂の上端に近い部分を指で刺激する。
「ふ…!?くぅっ…」
「ここ、女の子の一番気持ちいいところ」
 包皮の上から、豊富な愛液にまかせてぐりゅぐりゅと刺激した。
「佐祐理…!だ、だめっ…」
「いいから。じっとしていて」
 佐祐理はさらに強く指を動かす。一度イカせてしまうつもりだった。
「あっ!」
 舞がかん高い声を上げて、背中をぐぐっと持ち上げる。そして一瞬硬直すると、力つきてばたんとベッドに倒れた。
「え…?」
「は…はぁっ…」
 舞の秘裂は、かすかにひゅくひゅくと収縮していた。
「え…もう、イッちゃったの?」
「はぁ…ぁ、はぁっ」
 舞の目は半分涙目になっていた。佐祐理は確信する。
「す、すごい舞の身体って感じやすいんだね」
「な…なんだか…頭が真っ白になって…」
「ねぇ、舞、自分でこういう事した事あるの?」
「…ない」
「でも、ひょっとすると佐祐理よりも舞って敏感かもよ」
「知らない…こういう風にするのも知らなかった」
「こんなに敏感だったら、自然とがまんできなくなってきちゃうと思うよ」
「知らない…佐祐理、私は本当に知らない」
「嘘ついちゃ、だめだよ?」
「だ、だから……あっ!?」
 佐祐理は顔を舞の股間にうずめる。そして、ちろりと出した舌を秘裂の中に割り入れていった…
「だ、だめ!佐祐理」
「ん…」
「き、きたな…う…ああっ」
 絶頂を迎えてまだすぐの舞の秘部に、ソフトながらも佐祐理の舌による刺激が与えられていく。強すぎる刺激に、初めのうちは苦痛にも似た感覚を感じていたが、絶頂の波が収まってくると同時に舞の身体に快楽が戻ってくる。
「あ…はぁ…」
 舞の声が落ち着きを取り戻してきたのを見て、佐祐理は口を離す。
「おんなのこ同士だと、ずっと出来るから」
「佐祐理…?男とこういう事したこと、あるの」
「ないよ。でも、男の人は一度イッちゃうと、もうそこで終わりなんだって」
「………」
 舞には想像できない。いろいろなものが。
「だから、おんなのこ同士の方が、楽しいと思うよ」
「…んっ」
 佐祐理の舌が、再び舞の秘裂を刺激し始める。今度は、しっかりと中まで舌を入れて、ぺろぺろと愛液を舐め取るような刺激を加えていた。
「ん…うっ」
 さっきよりも身体の奥を刺激されているような感覚を舞は感じていた。指とは違う柔らかい感触と、唾液によるぬめりはソフトでありながらねちねちとした刺激になってくる。口で愛するという行為に対する嫌悪感や不安感のようなものは、すぐに薄れていってしまった。
 じゅ…じゅっ
「い、いやだ、佐祐理」
 佐祐理が大きな音を立てながら、あふれ出す愛液を吸い取っていく。ヴァギナの入り口に直接口をつけて、唇を思い切り密着させた状態で液体を吸い取っているのだ。身体を強く吸われるという行為は、それだけで何かしらの感情を抱かせるものである。ましてやそれが敏感な部分となれば。
「や、やめて」
 だが佐祐理は飽きもせずに流れ出してくる液体を吸っていった。ごくごく小さなヴァギナの入り口から、なぜこれほど流れ出すのかと思うほどにたっぷりとした愛液が分泌されているのだ。
 いつしか液体は完全に透明な色から、わずかに半透明な色に近づいて、味わいも変化してきていた。
「ん…」
 佐祐理はそれを目ざとく見つけると、一度ちゅるちゅると吸い立ててから舌戯を中断する。
「あ…佐祐理」
 小さな声が上がる。
「舞、もっと続けてほしかったの?」
「そ、そんなこと言っていない」
「でもね、舞の身体はここに何か入れて欲しくてたまらないって言っているんだよ」
 佐祐理はちょんちょんとヴァギナの辺りをつつく。
「そんな…」
「舞…ここに入るようになると、もっと素敵な気分になれるの」
「………」
「大丈夫だよ、そんなに痛くないし、すぐに気持ちよくなっちゃうから」
「佐祐理…」
 既に、自らの手で佐祐理は処女を喪失していたのだろうか?
 その蓋然性を限りなく高める科白を、佐祐理は今吐いたのだ。
「ちょっと待っててね」
 佐祐理が身体を起こし、ベッドから下りる。
 舞の頭には、佐祐理に対する底知れない感情が渦巻いていた。いつもの佐祐理と今の佐祐理、どちらが本当の佐祐理なのだろうか?それとも、こういう状態になると豹変する事は当たり前の事なのだろうか?
 確かに、舞の身体も思いも寄らないほど性行為に対して敏感に反応していた。…佐祐理に言わせれば。
 と言っても、少なくとも相当に激しい反応を自らの身体が返している事くらいは舞にでもわかる…
 向こうの方で、引き出しを開けて何かを探っているような音が聞こえている。佐祐理は舞の処女を破る道具を探しているに違いない。
 いかな舞とは言え、それは恐怖を持って感じられた。もちろん、誰か愛する男に処女を捧げたいなどという少女らしい願望を舞が持ち合わせていたはずもない。ただ、ごくごく小さな一点に異物が侵入してくるということ、それ自体が怖かった。何か異質なものが自らの中に入ってくる事に、舞はどうしようもない恐怖を感じるのだ。
 とんとん、と小走りに佐祐理が駆けてくる。
「お待たせっ」
 佐祐理がベッドに上がってくるときに、床に何か転がる音がした。プラスチックのようなガラスのような、硬質の音だ。
 しかし、そんな事に気を取られている余裕は無かった。佐祐理の手には、真っ黒の卵形をしたプラスチックの物体があったのだ。コードが伸びていて、その先が同じく黒い色をした箱につながっている。
「これ、小さいから、大丈夫だと思うよ」
「あ…あっ」
 舞は乾いた声を出した。小さいと言っても、小さいサイズの卵を少し細くしたくらいの大きさはある。それが入ってくると言う事が信じられない。
「舞、息を吐いて、力を抜いて」
 佐祐理はもはや舞に同意を問う事すらしなかった。
「い…あっ、あっ」
 引きつった声は、佐祐理にどのように聞こえたのだろうか。
 内股の辺りに当てられたそれは、舞の肌を滑り上がって秘裂まで到達する。ぬぷり、と液体の中に沈み込む音が立って、ヴァギナの入り口にぴったりと押しつけられたローターは、舞にかすかな圧迫感を感じさせる。
「力、抜いて」
 佐祐理の声がするのと同時に、無意識に息を大きく吐き出してしまう。わずかにゆるみが生まれた瞬間、佐祐理はぐいとそれを押し込んだ。
「あっ…」
 入っていく。舞の中に、生まれて初めて受け入れるものが押し込まれていく。
「ほら、簡単に入っちゃった」
 しかし、舞は圧迫感と言い様のない不安感を感じている。これが二度と抜かれる事はないのではないかというような、存在の一部を浸食されているような圧迫感だった。
「入れていくよ…」
 佐祐理は、舞の入り口近くにうずめたローターを、少しずつ深みまで押し込んでいく。
「う…」
 押し込まれるごとに、どんどん圧迫感が強くなっていく。それが圧迫感で済まなくなりそうになった瞬間、こつんと何かにローターが当たった。
「これで、舞も佐祐理と一緒だよ」
「え…」
 ぷちっ。
「ひっ!」
 佐祐理が思い切り力を入れると、舞の身体の中で何かが壊れる音がした。
 ぷち…ぷち、ぷちっ
「あ…あっ、くっ」
 明確な痛みが生まれる。それは、舞が傷つけられている証拠に他ならない。魔物との戦いの中で負った事のある傷とは性質が違う。痛みの度合いで言えば戦闘の中で負った傷の方が大きいくらいかもしれないが、自分の中核を壊されていくような痛みを戦いの中で感じる事はない。
 それはあくまで外傷なのだ。もちろん、今の舞に与えられているのも外傷なのだが、これは外傷の域を一歩はみ出している傷と言って間違いない。
 全身に冷たい汗を浮かべて、舞は痛みに耐える。冷たく硬質なローターと、それをつかむ佐祐理の指の感触が膣壁に感じられたが、舞はその区別を形状でする事しかできなかった。
「これで、一番奥まで入ったよ…」
 確かに、舞の身体の奥深くに異物の感触が感じられる。そこからコードが伸びているのも、かすかに分かった。
 佐祐理の額にも、うっすらと汗が浮かんでいる。
「せっかくだから、スイッチ入れてあげたいけど」
「す、スイッチ?」
「でも、痛いかな」
「な、何?佐祐理っ」
 未だにローターの意義を理解していない舞にとっては、不安を煽る言葉にしかならない。
「でも…せっかくあるのを使わないのは勿体ないよね」
 ひとりごとのように言って、スイッチボックスに指を伸ばす。
「さ、佐祐理、何を」
 ぶ…ん
「ひあっ!?」
 舞が身体を大きく跳ね上げる。
 佐祐理はその瞬間目を丸くして舞の事を見ていた。
「い…あ、あ、うああっ」
 傷口をこすられるような痛みよりも、得体の知れない振動と初めて感じるヴァギナの奥への刺激の方が嫌悪感を誘った。舞は脚を開いたり閉じたり、背中や頭をベッドにこすりつけるようにしたりして、激しく悶える。
「き、気持ちいい?舞」
 佐祐理はおずおずと問いながら、スイッチボックスに再び手を伸ばした。
 パチ…
「あ…はっ、はぁっ、はぁっ…」
 舞は、目から涙をにじませて、天井をぼんやりと見つめながら大きく呼吸する。かなりのダメージだったようだ。
「あはは…っ、ちょっと舞にはまだ早かったかな」
 佐祐理はコードに手をかけて、引っ張る。舞の中から、血液と愛液に濡らされたローターがすぽんと引っこ抜けた。
「…う」
 抜くときも、舞は小さく声を漏らす。抜く行為も、中を無造作に摩擦している事には変わらないわけだから当然だが。
「でも、慣れると本当に気持ちいいんだよ…これ」
 佐祐理は右手に持ったローターに目をやりながら言う。黒色だけに、付着した血液の色はよくわからなかったが、佐祐理の手の平に血混じりの愛液が垂れる事で、舞の破瓜のしるしがよくわかるようになった。
「………」
 左手でパジャマのズボンとショーツを同時につかみ、秘部だけをさらけ出すかのようにめくる。
「みてて…」
 佐祐理は右手に持ったローターを、そこに近づけていった。着衣を完全に脱いでいるわけではなかったため、舞の目には佐祐理の秘部の様子がはっきりと見えているわけでもない。それでも、佐祐理のヘアがかなり薄いことと、佐祐理が本気で自らの中にローターを挿入しようとしている事は見て取れた。
 左手の指で秘裂を割り開き、そこにローターをゆっくりと押しつけ、さっき舞にしたように力を込めて中へと入れていく…
「ん…」
 佐祐理は、ほんのわずかに声を出した。苦痛や嫌悪から来る声ではない。ため息のような、入ってしまったという事を自ら確認しているような声だ。
 入れた瞬間は左手がズボンとショーツをめくり上げていなかったため、舞はその瞬間を見る事はできなかった。それでも、佐祐理が本当に挿入したのだろうということは確信できる。
 服の下から両手を出すと、ズボンとショーツは元通りに戻る。ただ、そこから黒いコードが出てきているのがさっきと違う点だ。
 佐祐理は躊躇無くスイッチボックスに指を伸ばし、スイッチをONにした。
 ぶ…
「ああ…」
 服にも遮られているためモーター音はほとんど聞こえなかったが、佐祐理の目がうるんでいく様子からも、実際にローターを挿入し、本気で快感を感じ始めているのは明白だった。
 佐祐理はベッドの上でいわゆる「女の子座り」のような姿勢を取ると、両腕で自らの身体を抱きしめていく。そして、まるで許しを請うような瞳で舞の事を見つめた。
「気持ち…いいよ…舞」
「佐祐理…」
「感じ…てるの…佐祐理…気持ちよくて、仕方がないよ…」
 舞は返答に窮しつつも、佐祐理から目をそらす事ができなかった。
 佐祐理は舞の事をそのままじっと見つめてから、今度は四つん這いの姿勢になって舞に近づく。
 そして、舞の両の腿にそれぞれ手を置いて、ぐっと身を乗り出した。先ほどのクンニリングスと同じ体勢である。
 何をしようとしているのか、それは舞にも理解できた。
「佐祐理に…舐めさせてください」
「佐祐理?」
 怪訝そうな声を出す。舞に対して、佐祐理が敬語を使った事などない。初対面の時から。
「お願いです…綺麗にさせてください」
「佐祐理、普通にしゃべって」
「………」
 それに対しては答えず、佐祐理は再び舞の秘裂に口づけていった。
「あ」
 舞は多少動揺した声を出す。先ほどの処女喪失でだいぶ醒めていたとは言え、その前まではめくるめく快感を感じさせられていた部分なのだ。優しく刺激されれば、気持ちよくならないわけがない。
 ちゅぷ、ちゅぷと唇を粘膜のあちこちに押しつける行為を繰り返した後、佐祐理は舌の先でヴァギナの入り口を撫で始めた。それは佐祐理の言った通り、そこを清めている行為に見える。流れ出している血液を含めて、佐祐理は熱心に舐めては嚥下していった。
「佐祐理」
 汚い、と言おうかとも思ったが、舞は何とはなしに佐祐理の頭を手の平で撫でていた。特に理由はない。ただ、自然に手が伸びたのだ。
 撫で始めた瞬間、佐祐理はぴたっと舌の動きを止めた。だが、すぐにより激しく舌を動かし始める。何かを求めているかのように、強く深く舌を動かす。
 舞のヴァギナからは新しい愛液が生まれて、佐祐理の口元や鼻の頭を濡らしていた。それにも構わず、佐祐理は一生懸命に舞のヴァギナから流れ出す液体を惚けたような目をしながら舐めている。
 段々腰の奥から熱い物がせり上がってくるのを感じながら、舞は奇妙な気分に囚われていった。戸惑いでも苦痛でも嫌悪でもない。かと言って、この行為を嬉々として受け入れるようになってきたわけでもない。むしろ、深夜に校舎で魔物と対峙しているのと同じように、この行為を当たり前のものとして受け入れられるようになってきたのだ。
 ヴァギナの辺りがほぼ綺麗になると、佐祐理は舌をクリトリスの方に向ける。
「くっ」
 そこを刺激されるのは、やはり他の部分と違う。舞は一気に快感のボルテージが上がるのを感じながら、それを出来るだけ抑えようと努めた。
 佐祐理は舌だけでつるりと包皮を剥いてしまい、舌の先でこねくり回し始めた。
「あ…あっ」
 それは、予想をはるかに越えた快感だった。それだけで限界に達してしまいそうになりながら、必死で耐える。
 佐祐理は指でしていた時と同じように、ぐりぐりとクリトリスを転がし続けた。単調ではあるが、クリトリスに最も大きな刺激が加わるのも事実である。
「…佐祐理、私、もう」
 その言葉に、激しく興奮したかのように佐祐理は滅茶苦茶にクリトリスを舐め立てた。
「あ…あ!」
 舞はぐぐっと佐祐理の顔に秘部を押しつけるように腰を持ち上げ、その体勢のままびくびくと何回も痙攣した。
 ばさっ。
 力つきて、シーツの上に身体を落とすと、佐祐理もそのままシーツの上に顔を落とした。満足げな表情。
「佐祐理」
「あは…佐祐理も…イッたよ…」
 佐祐理もまた、行為をしながら挿入されたローターを感じていたのだ。
「…まだしたいなら、しても構わない」
「本当?今日は夜更かししても大丈夫だから…ずっと、佐祐理と一緒にいてね」
「わかっている」
 舞は冷静なまま答えた。
 佐祐理も、舞が冷静を取り戻しているのは理解していただろう。だが、佐祐理は何も言わずに舞に抱きついていった。